建設業は他業種と比べ、会社員から独立するケースが多い傾向にあります。建設業で独立するにあたり、開業資金や事務所などの準備はもちろん、経営形態、建設業の許可の取得など、独立する前に把握しておくことが重要です。独立後は仕事を自分で受注するため、会社員時代の人脈が役立つこともあります。
今回は、独立を成功させるため、独立前に知っておくべきポイントについて解説していきます。
■建設業で独立する前に知っておくこと
建設業で独立するにあたり、事前に知っておいた方がいいことを紹介します。
◇経営形態の違い
建設業で独立する方法は、個人事業主、法人化、フランチャイズの3つです。
個人事業主で独立する場合、税務署に開業届と青色申告の申請書を提出すればOKです。個人事業主の開業の手続きに費用はかかりません。1人親方として自分のペースで働いたり、数名の従業員を雇ったりといった小規模の経営に適しています。
合同会社、株式会社として法人化することも可能です。しかし、個人事業主と異なり、法人化は手続きが複雑です。
まずは商号や資本金の額を決めてから、役員報酬の設定、会社の代表印や定款の作成を準備します。定款は公証役場で認証を受けてから、法務局に会社設立登記申請を行ないます。また、税務署や市区町村役場への届け出、社会保険、労災保険の手続きなども必要です。
なお、株式会社設立の際は、以下の法定費用(おおむね20万円前後)がかかります。
・法人化するためには登記のための登録免許税
・定款用の収入印紙代(電子定款の場合は不要)
・定款の承認のために証人に支払う手数料
・謄本手数料などの法定費用
法人は社会的信頼度が高いことで融資を受けやすい、自分への給与も経費として計上できるので個人事業主よりも納税額が少ない、といったメリットがあります。法人でなければ取引しない企業も多いため、事業を拡大したい場合は法人化を検討しましょう。
なお、フランチャイズはリフォーム業の開業で多いケースです。フランチャイズは説明会に参加したうえで、加盟金を支払い、加盟店契約を結ぶことで開業できます。フランチャイズは個人事業主、または法人化することも可能です。
◇建設業の許可を取得するか
建設業の許可とは、請負金額が500万円以上の工事を受注できる許可のことです。建設業の許可を取得すると、規模が大きい工事を受注できます。法人化する場合は、建設業の許可は必須といえるでしょう。
1人親方や少人数の職人で経営する個人事業主など、500万円以下の軽微な工事を中心に請け負うケースもあるでしょう。しかし、軽微な工事しか請け負わない場合でも、建設業の許可を取得するケースが増えています。元請けの会社から許可の取得を求められる場合や、同業他社が取得した、発注者へのPRといった理由のようです。
建設業の許可を取得するにあたり、個人では500万円の預貯金、法人は資本金500万円以上が必要です。また、2020年10月から、適正な社会保険の加入が建設業の許可の条件に加わりました。個人事業主は家族以外の5人以上の従業員がいる場合、法人は社長1人だけでも加入が必要です。
◇建設業の許可は要件を満たす必要がある
建設業の許可を取得するには、営業所ごとに配置する専任技術者の要件を満たすこと、経営管理者になれる経営経験が必要です。会社員時代に技術を積んだうえで、施工管理技士などの国家資格を取得してから独立するのが望ましいでしょう。
また、国家資格に加え、施工管理としての経験があると、発注者からの信用が得やすくなります。
■建設業の独立に向けて準備することとは?
建設業で独立するために、準備するものを紹介します。個人事業主、法人で共通しているため、独立を考えている方は早めに準備しておきましょう。
◇開業資金は必須!
個人事業主、法人ともに、開業資金を貯めておく必要があります。しかし、気になるのは開業資金がいくら必要か?という点でしょう。
開業資金の額は、従業員を雇うかどうかで変わります。従業員がいる場合は、給与や収入が入るまでの期間を含め、最低でも200万は用意しなければなりません。
従業員を雇わない1人親方の場合は、極論をいうと開業資金ゼロでも可能です。しかし、施工に使う道具などの費用がかかるうえに、資金がなくなると倒産のリスクが高くなります。1人親方でも、100万円程度の資金を用意しておきましょう。
また、建設業の許可の取得など、資金が不足する場合は融資を受けるのも一つの手です。例えば、日本政策金融公庫は独立開業を支援するもので、自己資金の2倍まで融資できます。金利も2%程度と低いため、融資を受けたいときは日本政策金融公庫を検討するのもおすすめです。
◇事務所と備品・什器の準備
事務所は自宅の一部を使ってもいいですし、賃貸物件を借りてもいいでしょう。自宅は費用がかからない反面、毎月の賃料は経費にできるので、その点も考慮して決める必要があります。
事務所の開設にあたり、パソコンやプリンター、デスク、ネット回線は必須です。また、車や施工に使う道具、資材なども準備します。
◇屋号の銀行口座を開設
開業時に決めた屋号で、仕事用の銀行口座を開設しましょう。口座をプライベートと分けて管理することで、確定申告の帳簿付けの作業が楽になります。帳簿付けが難しい場合、会計ソフトや税理士を利用してもいいでしょう。
なお、法人の資本金については、法人設立前は個人名義の口座に入金し、法人設立後にその資本金を法人名義の口座に移動することになります。
法人名義の口座を用意するには、必要資料などを揃えて銀行と面談するなど、準備に手間と時間がかかるので、迅速に対応できるようにしましょう。
■建設業の独立後に仕事を受注する方法
会社員と異なり、独立後は仕事を自分で受注しなければなりません。そこで、独立を早く軌道に乗せるため、仕事を受注するポイントを把握しておきましょう。
◇会社員時代の人脈
会社員時代に人脈を作っておくと、独立後に仕事を得る一つのきっかけになります。ただし、人脈を仕事の受注に活かすには、お互いに信頼があることが前提です。独立を目指す場合は、上下関係や元請けなど、関係のある人と良好な人間関係を築いておきましょう。
また、人脈は元請けなどの縦のつながりだけでなく、横のつながりも必要です。同業者の横のつながりをもつと、忙しいときに手伝ってくれたり、自分が暇なときに声をかけてくれたり、お互いに助け合える関係になります。
◇自分で仕事を受注する
人脈で受注先を増やすほかに、自分で仕事を受注する方法もあります。ホームページや広告で集客し、お客様から直接仕事を受注するのです。自社のホームページで集客する傍らで、元請けから仕事を受注すると、収入が安定しやすくなります。
■まとめ
建設業で独立する場合、個人事業主または法人化のいずれかの道を選ぶことになります。1人親方や少人数で経営したい場合は個人事業主、事業を拡大したい場合は法人化を目指しましょう。しかし、いずれの方法も最低限の開業資金が必要で、建設業の許可を取得する場合は500万円以上の資金を用意しなければなりません。建設業の許可は仕事の受注や事業の拡大に欠かせないため、先を見据えて資金を貯めておきましょう。
また、独立後は人脈の有無が仕事の受注に影響します。独立を目指す方は、会社員時代に人脈と信頼関係を築くことが大切です。