「建築設備士って意味がないの?」「資格を取得したら何ができるの?」といった疑問を抱える人も多いのではないでしょうか。
しかし実際には、建築設備士は建築物の快適性や省エネルギー性能を支える“縁の下の力持ち”として重要な役割を担う国家資格であり、取得することで専門知識の証明やキャリアアップ、転職市場での評価向上といったメリットがあります。
建築士と連携し、空調・給排水・電気などの設備設計や工事監理に専門的な助言を行うことができ、近年の省エネ化やスマート建築の進展により、需要も高まっています。
本記事では、「意味がない」といわれる理由の真相から、建築設備士にできること、将来性、資格の難易度、平均年収までをデータをもとに徹底解説します。
建築や設備の現場経験を活かして、次のキャリアを築きたい方や、建築設備士に興味がある方はぜひ最後までご覧ください。
- ✓ 建築設備士が「意味がない」と言われる理由とその真相
- ✓ 建築設備士にできること・将来性・年収の実態
- ✓ 資格を活かしてキャリアアップ・転職する方法
建築設備士の役割とは?

建築設備士とは、建築物の快適性・安全性・省エネルギー性能を支えるために、建築設備の専門知識をもって建築士に助言する国家資格です。
建築士法に基づき、資格を取得していなければ「建築設備士」と名乗ることはできません。
建築設備士は、空調・換気・給排水衛生・電気設備などの設計や工事監理について、建築士に適切なアドバイスを行うのが主な役割です。
建築物の利用者が快適に過ごせるよう、設備の配置や仕様の検討段階から建築士と協働するケースもあります。
また、建築士法第22条の3では、建築士事務所が建築物の設計または工事監理の委託を受けた際、建築主に交付する書面に「業務従事者としての建築設備士の氏名」を記載することが定められています。
出典:令和7年建築設備士試験 受験総合案内書 国土交通大臣登録試験実施機関 公益財団法人 建築技術教育普及センター
建築設備士の気になる将来性・需要

建築設備士の将来性において、一般的な懸念点と今後の需要について見ていきましょう。
建築設備士は業務独占資格ではない
国家資格である建築設備士は、実は業務独占資格ではなく名称独占資格です。
業務独占資格とは、国家資格を取得しないとできない仕事のことです。例えば、弁護士や医師、看護師などが挙げられます。
名称独占は、資格取得者でなければ「建築設備士を名乗ってはいけない」という縛りだけで、建築士へのアドバイスは建築設備士でなくても行なえます。そのため、建築設備士の将来性に疑問をもつ方も少なくないのです。
しかし、平成27年6月の建築士法改正により、「延べ面積が 2,000平方メートルを超える建築物の建築設備にかかわる設計、工事監理の際に、建築設備士の意見を聴くよう努めなければならない」とされました。
建築設備士のアドバイスは義務ではないとはいえ、法改正により建築設備士の需要が高くなることが予想されます。
建築設備士の需要は高まる
建築設備士は「アドバイスが義務ではない=必要ない」と思われることがあります。
しかし、近年の建築設備には高度、かつ複雑なシステム制御が活用されるため、建築設備士の必要性がますます高まってきています。
そもそも設計の専門家である建築士が、高度な建築士設備の知識を理解するのは簡単なことではありません。
より安全性の高い建設が求められるため、今後は建築設備士の適切なアドバイスがより求められるでしょう。
また、安全性を求めるクライアントの場合、「建築設備士のアドバイスを受ける」ことを、設計条件に加える動きもあるようです。建築設備士の国家資格をもつ、建築設備のプロとして幅広く認知される将来は近いといえるでしょう。
建築設備士における将来的な展望

新分野の拡大により、建築設備士の地位が向上する可能性が高まっています。そこで、建築設備士の将来的な展望について見ていきましょう。
省エネ分野の活躍
地球温暖化防止に向けた省エネ化の流れが加速しており、建築設備士はその中核を担う存在です。
平成29年4月から建築物の省エネ適合義務化が始まり、空調・照明・給排水など設備面での省エネ設計が一層重視されています。
また、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やZEH(同・住宅)の普及が進み、太陽光発電や断熱性能の向上といった新技術への理解も不可欠です。
国土交通省・経済産業省・環境省による補助金制度も整備されており、省エネ建築の推進役として建築設備士の活躍が今後ますます期待されます。
出典:経済産業省・資源エネルギー庁|ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)
医療福祉分野への発展
24時間体制の病院施設は、空調、衛生、電気などの建築設備の維持が必要です。特に、生命維持管理装置や集中治療室のある病院は、建築設備が人命に大きくかかわります。
電気、空調、衛生などのインフラ整備の正常な稼働に向けて、建築設備技術者の団体では電気供給の安定化に向けた取り組みを推進しています。
建築設備の機能維持・機能向上による安全と安心の確保、病院施設のエネルギーの効率的な運用といった内容です。
生きるうえで欠かせない病院施設において、建築設備士の担う役割は大きいといえるでしょう。
スマートコミュニティ
地球温暖化防止における温室効果ガス(二酸化炭素)の排出を抑える、低炭素社会の推進が活発化しています。
再生可能エネルギーを活用したまちづくりである、「スマートコミュニティ」に建築設備士の知識とスキルが欠かせません。
再生可能エネルギーは、太陽光や風力、地熱など、温室効果ガスを排出しない発電方法です。
送電網にITを活用して電力を制御し、無駄な電力の消費を抑える電気供給システムのスマートグリッドなどもスマートコミュニティを形成する要素です。
省エネ化は個々の建物から、再開発などのまちづくりに発展するはずです。IT技術の導入など建築設備の高度化が進むため、建築設備士はこれから需要が伸びることが期待されます。
建築設備士の資格難易度【令和6年度の合格率データ】
建築設備士試験は、一次試験(学科)と二次試験(設計製図)で構成される国家資格です。
試験実施機関である公益財団法人 建築技術教育普及センター(JAEIC)の最新データ(令和6年度)によると、合格率は以下の通りです。
| 年度 | 一次試験(学科)合格率 | 二次試験(設計製図)合格率 | 総合合格率 |
| 令和2年度 | 25.7% | 41.4% | 13.5% |
| 令和3年度 | 32.8% | 52.3% | 18.8% |
| 令和4年度 | 31.4% | 46.4% | 16.2% |
| 令和5年度 | 30.0% | 48.7% | 19.1% |
| 令和6年度 | 33.3% | 53.4% | 21.5% |
出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター「建築設備士試験結果(令和6年度)」
一次・二次ともに年々やや上昇傾向にあり、令和6年度の総合合格率は21.5%でした。
学科試験では法規・構造・設備原理など幅広い知識が問われ、設計製図試験では実務レベルの図面作成力が求められます。
独学よりも講座や過去問分析を取り入れることで、効率的な学習が可能です。
建築設備士の平均年収【設備設計・施工管理で高水準】
厚生労働省「職業情報提供サイト(jobtag)」によると、建築設備士が多く従事する「建築設計技術者」の平均年収は約641.6万円(令和6年 賃金構造基本統計調査)です。
平均年齢は43.6歳、月平均労働時間は163時間と報告されています。勤務先は建築設計事務所やゼネコン、設備会社など多岐にわたり、経験や担当物件の規模によって年収差が生じます。
設計・監理・省エネ設計などの実務経験を積むことで、年収800万円以上(※年齢別の年収より)を目指すことも可能です。安定した需要があり、今後も高い専門性を発揮できる職種といえるでしょう。
出典:厚生労働省「職業情報提供サイト(jobtag)建築設計技術者」
まとめ
国家資格である建築設備士は、建築設備のプロといえる資格です。建築士に対し、高度化、複雑化する建築設備の設計や工事監理についてアドバイスする役割があります。
しかし、名称独占資格ゆえにアドバイスの義務はありませんが、法改正により建築設備士がアドバイスする機会が増えるかもしれません。
また、省エネ化のゼロ・エネルギー・ハウス、スマートコミュニティなど、省エネ化分野は目覚ましい発展を遂げています。
複雑な建築設備も登場しており、建築設備士の高度な知識は今後も求められるはずです。長い目で見て、建築設備士は将来性のある資格といえるでしょう。
建設業界での転職を考えている方は、ベスキャリ建設のキャリアアドバイザーにぜひご相談ください。
建築設備士の受験資格は?実務経験や申告方法について解説