新型コロナウイルスの影響により、国内外の建設投資は厳しい状況が続いています。しかし、海外においてはインフラ整備などの建設需要が高いことから、今後の経済回復により建設受注が再び増加に転じると見込まれているようです。
今回は、建設業で海外勤務を目指す方に向けて、国内外の建設業界における現状と需要、海外事業を展開している企業の探し方を解説していきます。
■国内の建設投資の状況と海外の建設需要
国内の建設投資は新型コロナウイルスによる影響を大きく受け、一部の住宅建設や非住宅投資、建設補修などを除いては、2021年度も引き続き減少していくと予測されています。海外の建設受注実績も新型コロナウィルスの影響により減少傾向にありますが、インフラ需要が高いことから、今後の経済活動再開による回復が期待されています。
◇日本国内における建設投資の状況
一般財団法人 建設経済研究所が2021年4月に発表したデータによると、国内の建設投資は前年度より1.7%減の62兆1,000億円と予測しています。民間建設投資では、住宅投資と非住宅投資のどちらも僅かな減少に留まっていますが、2020年度の民間住宅投資は新型コロナウイルスの影響が大きく、前年度より7.5%減少しました。2021年度も好転することなく、引き続き投資の減少が見込まれています。
※参考:一般財団法人 建設経済研究所|建設経済モデルによる建設投資の見通し
住宅建設においては、持ち家・貸家は減少傾向が続く反面、マンション・戸建ての分譲住宅は増加傾向の兆しがあるようです。また、非住宅投資においては倉庫や流通施設が堅調に推進し、民間土木投資でも上昇傾向が見られます。しかし、発電用投資は足踏み状態で、鉄道や交通事業においては業績悪化が懸念され、厳しい状況です。
一方、リフォームやリニューアルなどの建設補修への投資は緩やかな増加傾向があり、2021年度には回復が見込まれています。
◇海外の建設需要の状況
世界の膨大なインフラ需要に対し、国内の建設需要は高齢化などの影響で減少傾向にあります。そのため、国土交通省は「インフラシステム輸出戦略」(※)を打ち出しました。インフラシステム輸出戦略は、日本の強みである技術やノウハウを生かし海外のインフラ需要を取り込み、日本の経済成長につなげることを目的としています。
アジア地域では、2016年~2030年で23兆ドルものインフラ需要があると見込まれています。北米地域での需要はアジアに次いで高く、アフリカや中東での需要も高まっています。このように、世界のインフラ需要は拡大を続けている状態です。
しかし、海外建設協会の「海外受注実績の動向」(※)を見ると、2019年度は2兆609億円、2020年度は1兆1,136億円と減少しています。2019年度までは3年連続で過去最高の受注高を記録したにも関わらず、その後おおよそ半分にまで落ち込んだ要因は、新型コロナウイルスによる経済停滞によるものです。現地の民間企業からの発注に加え、政府開発援助(ODA)の案件も大幅に減少しました。市場の大きなアジアや北米においても大幅な受注減となりましたが、米国においてはワクチン接種拡大による経済活動再開で盛り返すことが期待されています。
※参考:海外建設協会|海外受注実績の動向
■建設業で海外勤務を目指すには?
建設業で海外勤務を目指すには、以下の2点が大切です。
◇語学力を身につける
現地でのコミュニケーションを円滑に行うためには、最低限の語学力が欠かせません。語学力を身につけるためには、英会話や現地の言語を日本にいるときから勉強しておく必要があります。語学力を磨いておけば、言葉の壁によるストレスが軽減され、仕事がスムーズに進みやすくなります。
ただし、コミュニケーションは言葉の問題だけではありません。働き方や考え方の違いから、思わぬ困難に直面する場合があります。海外勤務を目指すからには、さまざまな問題が起こりうると心得ておくべきでしょう。
◇海外勤務を希望する意思を伝える
希望者全員が海外勤務できるとは限らず、決定するまでに数年程度の時間を要する場合があります。そのため、海外勤務を希望する意思を固めたら、早めに上司に伝えることが大切です。
■海外勤務を前提にした企業の選び方
海外勤務を目指す場合、海外事業を展開する企業に就職する必要があります。そこで、海外事業に力を入れている建設業界の企業と選び方、海外勤務状況を解説します。
◇スーパーゼネコン
ゼネコン業界のなかでも売上高が上位の企業をスーパーゼネコンといい、大規模なプロジェクトとなる地下鉄や橋などのインフラ整備に携わっています。
海外勤務者が多いスーパーゼネコンは、清水建設、鹿島建設、大林組などが挙げられます。一部のスーパーゼネコンでは、若手社員を積極的に海外赴任させているようです。
◇海外事業を展開する建設会社
海外事業は、スーパーゼネコンだけでなく、中堅レベルの建設会社も参入しています。小規模ながら全従業員数に対して海外勤務社員の割合が多い企業もあります。スーパーゼネコンにこだわらずに選択肢を広げることが、海外勤務への近道です。
◇ODA(政府開発援助)に参加する企業
ODAとは政府開発援助(Official Development Assistance)の略称で、発展途上国の経済もしくは社会を成長させ、福祉の向上に役立つ資金や技術提供のことです。アジアを中心としたインフラ設備の需要が高い地域で、高速輸送システムや橋、空港などの整備を行なっています。
ODA事業には民間企業も参加しており、中小企業も増えつつあるようです。企業を選ぶ際には、会社の規模にかかわらず、ODAに参加している企業を選ぶのも一つの手でしょう。
◇転職サイトを利用
転職サイトには、国内だけでなく海外を勤務地とする求人も紹介されています。特に、東南アジアやアフリカ地域は建設需要が高いため、求人が多いようです。
職種は、施工管理やコンサルタント職が比較的多く見られ、年収は600万円~1,000万円程度と高い水準です。施工管理などの実務経験や施工管理技士などの資格が必要となる求人も多いため、応募の際には注意が必要ですが、自信のある方は挑戦してみましょう。
■まとめ
新型コロナウイルスにより、経済は世界的に大打撃を受けました。国内外の建設業界への影響も大きく、厳しい状況が続いています。しかし、そのような状況下にありながらも、国内ではリフォーム人気の高まりにより建設補修への投資が増加しています。
また、海外においては、一時的に受注が減少しているものの、日本の高い技術を生かしたインフラシステムへの需要が高い状態です。
今後は、さまざまな対策が講じられるなか、経済回復にともなって国内外での建設業の需要が増加し、海外勤務のチャンスも増えていくでしょう。