建設需要を支えた東京オリンピック、新型コロナウイルスの影響など、建設業界を取り巻く情勢は刻々と変化しています。2021年の出来高は好調だった反面、原材料の高騰や人材需要などさまざまな課題を抱えていました。2022年の建設業界は、どのような方向に進むのか気になるところでしょう。今回は、2021年における建設業界の状況を踏まえ、2022年の動向について解説します。
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■2021年の建設業界はどうだったか?
2022年の動向を推測するにあたり、まずは2021年の建設業界を振り返ります。
◇2021年の出来高は2020年を上回る
2021年は2020年を上回る出来高で、特に民間工事が回復傾向にありました。民間の元請け工事受注は、2020年と比べて21%増と大幅に増加しています。
民間工事の増加により、大きな影響を受けたのが公共元請け工事です。2021年の上半期に好調だったものの、7月以降は2020年を下回る大幅な減少となりました。
2021年の手持ち工事高は2020年を上回っており、短期的な工事量が多いことを示します。手持ち工事高とは、施工の完了により出来高となる工事金額で、将来の売上高の指標になるものです。手持ち工事高の増加率は公共工事の方が高いため、公共工事が建設業界を支える構図は、2022年も変わらないことが予想されます。
◇2021年の人材需要
東京オリンピックによる建設需要がピークに達したのは2019年のことです。2021年は2019年を上回る水準で、建設技術者の人材需要が高まりました。
建設技術者の平均有効求人数は、2021年で58,705人を数えます。2020年と比較すると8.2%増、2019年とでは0.6%増と、人材需要は東京オリンピック関連の建設が多かった2019年を上回っている状況です。
しかし、2021年5月以降は建設技術者の有効求職者数が減少に転じており、有効求人倍率は高いものの、人材がいないという状況が今後も続くと予想されます。
◇建設資材の価格高騰の影響
2021年以降、建設資材の価格は前年の2倍近い水準まで高騰しています。
木材、石油、鋼材原料となる鉄鉱石や石炭などの輸入価格が高騰し、メーカーも値上げせざるを得ない状況です。原材料価格の高騰により、塩ビ管やポリエチレン管、H形鋼、塗料、内装材も断続的な値上がりを見せています。なお、原材料価格だけでなく、コンテナ船の運賃高騰も値上げに影響を及ぼしています。
特に、木材の価格高騰は「ウッドショック」と呼ばれ、国内は木材の供給が需要に追いつかない状況に陥りました。新型コロナウイルスの影響によりリモートワークが増え、アメリカで新築住宅建設やリフォームの需要が増加したことがウッドショックの引き金とされています。
また、新型コロナウイルス対策で工場が閉鎖となったことを受け、部品不足による給湯器やトイレの納期遅延も問題となりました。2021年は、工事を受注するよりも、完成させる方が難しいという側面もあったようです。
■2022年の建設需要と今後の動向とは?
2021年は民間工事が好調で、人材需要がさらに高まった1年でした。今後予想される、2022年の建設業界の動向を見ていきましょう。
◇公共工事は堅調に推移
2022年の建設投資は62兆9,900億円と、前年度から0.3%の微増となる見通しです。一方、民間建設投資は、非住宅投資で前年比3.9%増、住宅投資は前年比2.1%の微減と予測されています。
民間工事の増加が予測されるなか、国土交通省による公共事業関係費の予算要求額は2020年度とほぼ同等の水準です。集中豪雨や地震、火山噴火など、甚大な自然災害が今後も発生すると想定し、その対策に使用するためです。
内閣官房では災害の備えとして、国土強靱化基本計画を推進しています。災害後の復旧、復興という事後対策ではなく、被害を最小限にするために国土や地域社会を構築するという取り組みです。「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」を策定したこともあり、災害対策の公共工事は、今後も堅調に推移すると予測されます。
◇人手不足解消に向けた省人化
2022年は職人の高齢化が進み、人材需要がさらに高まります。労働人口の減少を解消するため、ロボットなどの機械による省人化が進んでいます。
国土交通省が進める建設業のICT化を目指す「i-construction」は、建設業の生産性向上を目的にICT技術を活用する取り組みです。i-constructionでは、土木・コンクリート工・施工時期の平準化という3つの柱を掲げ、従来の工事量を少ない人数と日程で実施することを目指しています。
例えば、ドローンを使った空中写真測量、3次元データによる施工・施工管理、建設機械の自動運転化、施工時期の平準化による繁忙期・閑散期の減少など、生産性向上に向けた取り組みが中心です。建設機械の自動運転化はリモート形式で遠隔操作ができるもので、危険な労働から解放される期待が高まっています。
なお、2024年4月から、建設業界にも時間外労働の上限規制が設けられます。月45時間かつ年360時間を上限とし、特別な事情がない限りは上限を超えられないという制度です。特別な事情がある場合にも上限規制を定めており、何時間でも残業できる状況ではなくなります。
建設業界は長時間労働が常態化しており、離職率の高さと求職者の少なさを招いています。
他業種ではすでに上限規制を施行していますが、建設業界は環境改善に時間がかかることから、2024年まで猶予が与えられました。猶予期限の終了が迫っていることから、人材確保の動きはさらに高まるでしょう。
◇建築補修・改装工事の増加
建物のリフォームやリニューアルの需要は、2022年も堅調に推移すると予測されます。
2022年度の建築補修(改装・改修)投資は、公共・民間ともに前年度を上回っています。さらに、2021年の7~9月期の民間建築物の改装工事の受注高は、前年の同期比で19%も増加したほどです。また、新しい生活様式に合わせた、空間利用のニーズが民間の住宅分野で高まるという予測もあります。
◇新築住宅は好調
2021年は首都圏の新築マンションの平均価格が、バブル期を超えるほどの高い水準になりました。2022年は新築・中古ともに、住宅市場の好調が予測されます。
新築住宅が好調な背景に、リモートワークの普及で、持ち家の快適性を重視する人が増えたことが挙げられます。さらに、税制改正にともなう住宅取得支援策の延長で、住宅ローン減税が延長されたことも要因といえるでしょう。
◇脱炭素化に向けた動きの加速
2022年より、建設業界でも脱炭素の動きが加速するでしょう。CO2を吸収するコンクリートの開発、省エネ住宅の普及など、脱炭素化に向けた技術開発も進んでいます。特に、国は省エネ住宅の普及を推進しており、新築住宅や省エネ化の建設需要が高まるでしょう。
省エネ住宅とは、冷暖房のエネルギー消費を抑えられる住宅のことです。夏の暑さを遮る日射遮蔽、冬に熱を逃がさない断熱、空気を逃がさない気密により、冷暖房効率を上げて電力消費を減らします。国土交通省は住宅の省エネ対策に約1,300億円の予算を要求しており、省エネに向けた改修への支援、住宅生産者や技能者、設計者への支援などを実施する予定です。
さらに、子育て世帯・若年夫婦世帯に補助金を支給する、「こどもみらい住宅支援事業」もスタートしました。子育て世帯の新築住宅や分譲住宅の購入、リフォームなどに補助金を支給する制度です。住宅を購入するハードルが下がるため、今後の建設需要を後押しする可能性もあるでしょう。
■まとめ
2021年の建設業界は民間工事が好調で、公共工事は前年度を下回るという結果でした。しかし、原材料の高騰による建設費の圧迫、人材需要の高まりなど、厳しい状況に置かれていたことも事実です。
2022年の動向は、公共工事がリードしつつも、新築住宅や省エネ住宅の建設需要の高まりが予測されます。住宅ローン減税の延長や子育て世帯への補助金など、住宅を購入しやすい環境も良い影響をもたらすでしょう。
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