施工管理技士補とは、建設現場における技術者不足への対応策の一環として、2021年に新設された国家資格です。
なかでも、1級建築施工管理技士補を取得すると、より規模の大きな現場や責任のあるポジションを任される機会が増えるため、キャリアアップや年収アップを目指す方から高い注目を集めています。
比較的新しい資格であるため「施工管理技士補になると何ができるの?」「取得メリットは?」「難易度は?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
そこで本記事では、施工管理技士補の役割や資格の要件、取得のメリットについて詳しく解説します。施工管理技士補の取得を通じて、キャリアの可能性を広げたい方は、ぜひ最後までチェックしてみてください。
施工管理技士補とは
施工管理技士補とは、建設業界の技術者不足に対応するため、2021年に新設された資格です。ここでは、施工管理技士補の概要と、新設された背景について解説します。
施工管理技士補の取得条件と業務内容
施工管理技士補は、主任技術者や監理技術者など「配置技術者」を補佐する役割を担う資格です。施工管理技士補には1級と2級があり、それぞれ以下の条件を満たすことで取得できます。
1級・2級 | 条件 |
---|---|
1級施工管理技士補 | 1級施工管理技士の第一次検定(学科)に合格 |
2級施工管理技士補 | 2級施工管理技士の第一次検定(学科)に合格 |
第一次検定に合格した後、第二次検定にも合格すれば、「施工管理技士」として正式に認定されます。 1級施工管理技士補は、監理技術者の補佐として、監理技術者の代わりに現場に常駐することが可能です。
施工管理技士になる前に、現場で責任あるポジションを経験できるため、将来的に施工管理技士を目指す上でも有効な資格といえます。 なお、2級施工管理技士補は、取得しても業務範囲が広がるわけではなく、実務上の優位性は特にありません。
施工管理技士の資格の種類
施工管理技士とは、建設現場で施工管理を担う技術者であることを示す国家資格です。
人々が安心・安全・快適に生活できる環境を支えるため、各分野の施工技術は高度化・細分化が進んでおり、施工管理を行う担当者にも一定以上の専門知識と技術力が求められます。
そのため、施工管理技士の資格は分野別に7種類あり、それぞれ1級・2級の等級に分かれています。
なお、正式な資格名は「1級電気工事施工管理技士」や「2級土木施工管理技士」などです。施工管理技士の種類と、それぞれの資格が担う業務の特徴は以下の通りです。
資格の種類 | 特徴 |
---|---|
1級・2級建築施工管理技士 | ビルや住宅など建物の建築工事を管理する |
1級・2級土木施工管理技士 | 道路や河川、ダムやトンネルなどのインフラを整備する土木工事を管理する |
1級・2級電気工事施工管理技士 | 電気配線や照明、変電や送電などの電気工事を管理する |
1級・2級管工事施工管理技士 | 給排水や空調、ガス設備などの管工事を管理する |
1級・2級造園施工管理技士 | 公園や庭園などの緑地工事を管理する |
1級・2級電気通信工事施工管理技士 | 電話やインターネット、セキュリティシステムなどの通信インフラ工事を管理する |
1級・2級建設機械施工管理技士 | クレーンやブルドーザーなど、建設現場に必要な機械の施工や運用を管理する |
施工管理技士の資格試験は、マークシート方式の第一次検定と、記述式や実地試験を含む第二次検定がそれぞれ年1〜2回実施されます。建設機械施工管理技士のみ、1級・2級ともに第二次検定後に実技試験が追加で行われることが特徴です。
各資格の第一次検定に合格すると、自動的に「1級建築施工管理技士補」や「2級管工事施工管理技士補」といった称号が与えられます。 さらに、施工管理技士補制度の導入により、第一次検定の合格有効期間は無期限となりました。
以前は、第一次検定合格から2年以内に第二次検定に合格しなければ再受験が必要でしたが、現在は第一次検定に合格すれば、期限を気にせず第二次検定を受検できるようになっています。
施工管理技士補が新設された理由
施工管理技士補が新設された理由は、主に次の2つの課題を解決するためです。
課題 | 内容 |
---|---|
監理技術者の不足 | 大規模工事に必要な監理技術者が足りない |
若手技術者の育成 | 若年層の施工管理技士候補を早期に育成したい |
建設業界全体の人材不足と若手育成の課題に対応するため、2021年に施工管理技士補制度が導入されました。
ここでは、その背景と目的について詳しく解説します。
監理技術者不足の解消
施工管理技士補が新設された大きな理由のひとつは、監理技術者の人手不足にあります。 大規模な建設工事では、現場を統括する監理技術者の配置が法律で義務付けられており、原則として1級施工管理技士の資格保有者のみが就任できます。
しかし、監理技術者は責任が重く、基本的に現場専任が求められるため、他現場との兼任ができません。 一方で、1級施工管理技士の人数は不足しており、現場ごとの配置が困難な状況が続いています。
この問題を解消するために設置されたのが「施工管理技士補」です。特に1級施工管理技士補は、監理技術者の補佐として現場に常駐できるため、監理技術者が「特例監理技術者」として2つの現場を兼務可能な体制を整えることが実現しました。
出典:監理技術者等の専任義務の合理化・営業所技術者等の職務の特例
建設業界の担い手・若手不足
建設業界では、技術者の高齢化や若手入職者の減少により、慢性的な人材不足が深刻化しています。
この状況を受け、2019年には「建設業法」「公共工事入札契約適正化法」「公共工事品質確保促進法」の3つの法律が改正され、いわゆる「新・担い手3法」が施行されました。
これにより、以下の取り組みが進められ、建設業界で安心して働ける環境づくりが強化されています。
- 公共工事の適正な工期設定
- 社会保険加入の義務化
- 建設現場の労働環境改善
主な取り組み 公共工事の適正な工期設定 社会保険加入の義務化 建設現場の労働環境改善 さらに、若手技術者の早期育成を支援するために新設されたのが「施工管理技士補」です。
こうした取り組みによって、施工管理の基礎経験を積みながら、将来的に施工管理技士へのステップアップが図れる仕組みが整備されました。
施工管理技士補を取得するメリット
ここでは、施工管理技士補を取得することで得られる具体的なメリットを紹介します。 施工管理技士補の資格を取得すると、キャリアアップや就職・転職活動で有利となるでしょう。
特に1級施工管理技士補は、責任ある立場で実務経験を積むことができるため、将来のキャリア形成に役立ちます。 施工管理技士補を取得すべきか迷っている方や、転職を検討している方はぜひチェックしてみてください。
キャリアアップへの近道になる
1級施工管理技士補になると、監理技術者の補佐として大規模工事の現場で実務経験を積むことができます。 監理技術者は、大規模な建設工事の現場全体を統括し、品質・工程・安全を総合的に管理する重要な役割を担っています。
高度な専門知識と豊富な実務経験が求められるため、発注者や元請企業からの信頼を得る上でも欠かせないポジションです。 1級施工管理技士補として現場に立つことで、早期から責任ある実務を経験できるため、施工管理技士としての成長を加速させられるでしょう。
さらに、将来的に1級施工管理技士の第二次検定を受ける際には、補佐業務で培った実務経験が強力な武器となります。1級施工管理技士の第二次検定では、記述形式も含まれる実施試験に合格しなければなりません。
監理技術者補佐で経験した内容を、自身の言葉で記述できれば、合格に近づくでしょう。
就職・転職時のアピールポイントになる
施工管理技士補の資格は、建設業界での就職・転職活動において大きなアピール材料となります。特に1級施工管理技士補を取得していれば、採用後すぐに現場に専任できるため、即戦力として高く評価されるでしょう。
さらに、公共工事の入札に必要な「経営事項審査(経審)」でも加点対象となるため、企業側にとっても採用メリットがあります。 一方で、2級施工管理技士補は、実務経験を必要としないため学生でも取得可能です。
新卒採用でも活用でき、資格を持っていること自体が業界への関心や学習意欲を示す証拠となり、採用の後押しになるでしょう。
求人での応募条件を満たしやすくなる
建設業界の募集要項では、1級施工管理技士補を歓迎条件として記載している求人もあります。資格を持っていると、応募できる求人の幅が広がるだけでなく、採用面で優遇される可能性も高まります。
特定の施工管理分野で就職・転職を目指す場合、その分野の1級施工管理技士補資格を取得しておくことで、応募先企業へのアピール材料になるでしょう。
たとえば、電気設備工事会社を志望するなら「1級電気工事施工管理技士補」、土木系のインフラ工事を目指すなら「1級土木施工管理技士補」を取得すると、専門性や意欲を伝えやすくなります。
施工管理技士補の試験内容や合格率について
施工管理技士補になるには、施工管理技士の第一次検定に合格する必要があります。
ここでは例として、建築施工管理技士の第一次検定の試験内容や合格率について解説します。 試験の具体的な内容や難易度を事前に把握しておけば、効率的な学習計画を立てることができるでしょう。
1級建築施工管理技士補の試験内容
施工管理技士補の資格を得るためには、施工管理技術検定の第一次検定(学科試験)に合格する必要があります。
施工管理技術検定は、建築、土木、電気工事など7分野に分かれており、それぞれ1級・2級が設けられています。各級は、学科試験である第一次検定と、実地試験である第二次検定の2段階構成です。
1級建築施工管理技術検定の第一次検定は、「建築学等」「施工管理法」「法規」の3科目について実施されます。各科目の概要は以下の通りです。
検定区分 | 内容 |
---|---|
第一次検定 | 建築学:環境工学・一般構造・構造力学・建築材料 施工:躯体工事・仕上げ工事 施工管理法:施工計画・工程管理・安全管理・応用能力問題 法規:建築基準法・建設業法・労働基準法・労働安全衛生法・その他関連法規 |
第二次検定 | 施工経験記述・仮設・安全・工程管理・躯体工事・仕上げ工事・法規 |
2級建築施工管理技士補の試験内容
2級建築施工管理技士補の第一次検定では、施工管理を適切に行うために基礎知識が問われます。1級と比較すると、問われる知識のレベルや範囲は限定的であることが特徴です。
試験科目は、1級と同様に「建築学等」「施工管理法」「法規」の3科目です。それぞれの内容は以下の通りです。
検定区分 | 内容 |
---|---|
第一次検定 | 建築学等:建築学(環境工学・一般構造・構造力学・建築材料) 設備その他:施工 施工全般:施工管理法(施工計画・工程管理・安全管理・能力問題) 法規:建築基準法・建設業法・労働基準法・労働安全衛生法・その他法規 |
第二次検定 | 建築・躯体・仕上げ |
施工管理技士補の合格基準
各資格試験の合格基準は、以下のとおりです。
資格の種類 | 第一次試験 | 第二次試験 |
---|---|---|
建築施工管理技士 | 1級・2級とも得点が60%以上 | 1級・2級とも得点が60%以上 |
土木施工管理技士 | 1級・2級とも得点が60%以上 | 1級・2級とも得点が60%以上 |
電気工事施工管理技士 | 1級:全体で得点60%以上、施工管理法で50%以上 2級:得点60%以上 |
1級・2級とも得点が60%以上 |
管工事施工管理技士 | 1級:全体で得点60%以上、施工管理法で50%以上 2級:得点60%以上 |
1級・2級とも得点が60%以上 |
造園施工管理技士 | 1級:全体で得点60%以上、施工管理法で30%以上 2級:得点60%以上 |
1級・2級 得点が60%以上 |
電気通信工事施工管理技士 | 1級:全体で得点60%以上、施工管理法で40%以上 2級:得点60%以上 |
1級・2級 得点が60%以上 |
建設機械施工管理技士 | 1級・2級とも得点が60%以上 | 1級:得点60%以上(実技・筆記) 2級:実技70%以上、筆記60%以上 |
施工監理技士補の合格基準は、各資格試験の第一次検定と同じ基準です。
これは、施工管理技士の第一次検定に合格することが、施工管理技士補の条件であるためです。 どの分野・等級でも、基本的には、60%以上を得点することが合格基準となっています。
ただし、電気・管・造園・電気通信の第一次検定では、全体での得点とは別に「施工管理法」で基準以上の得点が必要になります。
施工管理技士補の合格率
2024年度の各資格試験の合格率は、以下の通りです。難易度を把握するためにも、自身の目指している資格の合格率を確認しておきましょう。
資格の種類 | 第一次試験 | 第二次試験 |
---|---|---|
建築施工管理技士 | 1級:36.2% 2級:50.5% |
1級:40.8% 2級:40.7% |
土木施工管理技士 | 1級:44.4% 2級:44.6% |
1級:41.2% 2級:35.3% |
電気工事施工管理技士 | 1級:36.7% 2級:47.5% |
1級:49.6% 2級:51.4% |
管工事施工管理技士 | 1級:52.3% 2級:65.1% |
1級:76.2% 2級:62.4% |
造園施工管理技士 | 1級:45.4% 2級:51.1% |
1級:40.0% 2級:49.3% |
電気通信工事施工管理技士 | 1級:40.5% 2級:68.6% |
1級:40.9% 2級:53.2% |
建設機械施工管理技士 | 1級:27.8% 2級:41.2% |
1級:48.4% 2級:51.3% |
出典:建築施工管理技士|KGKC 建設技術教育センター
出典:技術検定試験 合格発表公表資料 | 一般財団法人 全国建設研修センター
出典:建設機械施工管理技術検定(1級・2級 第一次検定・第二次検定)|一般社団法人日本建設機械施工協会(試験部)
施工管理技士補の合格率は、該当する分野や等級の資格試験での第一次検定の合格率を意味します。
毎年行われる施工管理技士の資格試験では、同じ試験であっても年度によって受検者数や合格率に変動があります。 いずれの資格も、第一次検定の合格率は30〜60%台になることが多いです。
まとめ
施工管理技士補とは、建設現場での施工管理を担う人材の育成を目的に、2021年に新設された国家資格です。
施工管理技士と同様に「土木」「建築」「電気工事」など7つの分野に分かれており、それぞれに1級・2級の等級があります。中でも1級施工管理技士補は、一定の条件を満たせば、監理技術者の代わりとして現場に配置することが可能です。
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