プラントとは、エネルギーや化学製品、医療用資材などを生産するために、複数の設備や機器が連携して機能する大規模な生産施設のことです。
本記事では、プラントの概要に加え、工場との違いや、種類について分かりやすく解説します。
さらにプラント建設に関わる仕事や、やりがい、必要な資格、プラントに関わる会社もご紹介します。
プラント分野への理解を深めたい方や、プラント業界への転職を検討している方はぜひチェックしてみてください。
建設業界におけるプラントとは?
建設業界においてプラントに関わる仕事は「プラントエンジニアリング」と呼ばれ、設計・施工・設備管理・試運転まで、さまざまな技術職が連携して行います。
ここでは、建設業界における「プラント」についてわかりやすく解説していきます。
プラントとは大規模な生産施設のこと
プラントとは、エネルギーや化学製品、医療用資材などを生産するために、複数の設備や機器が連携して機能する大規模な生産施設のことを指します。
単なる建物ではなく、設備一式を含めた総合システムである点が大きな特徴です。大量の製品を製造したり、エネルギーや水を処理したりするため、プラントは規模の大きな施設として設計されています。
具体的な例としては、食品や医薬品の加工・生産を行う施設、エネルギーや工業用資材の製造施設、さらには廃棄物処理を担う設備などが挙げられます。
プラントと工場の違い
プラントと工場の違いは、「製品を製造する施設」か「原料やエネルギーを生産・処理する施設」かという点にあります。
工場とは、製品の加工・組み立て・包装などを行う建物や生産ラインを指し、主に完成品を製造することが目的です。
これに対して、プラントは複数の設備や機器が一体となり、原料の生成やエネルギー供給といった大規模な生産活動を行う施設を指します。
そのため、プラントは石油や化学、電力、鉄鋼などの分野における大規模な生産拠点として機能しており、工場よりも規模が大きく、複雑な制御システムを備えているケースが一般的です。プラントと工場の違いを整理すると、次の通りです。
項目 | プラント | 工場 |
---|---|---|
主な目的 | 原料やエネルギーの生産・処理 | 製品の加工・組立・製造 |
対象分野 | 石油、化学、電力、鉄鋼など | 自動車、食品、衣料品、家電など |
規模・構造 | 大規模・複雑な設備構成 | 比較的コンパクトな建物と生産ライン |
工場が「完成品を製造する場」であるのに対し、プラントは「素材やエネルギーを生み出す場」と言えます。
そのため、プラントでは、原料の加工やエネルギーの供給を安定して行うため、ガスタービンや配管、タンク、制御装置などの専門設備が欠かせません。
プラント工事と建築工事の違い
建築工事とプラント工事は、目的や施工内容に明確な違いがあります。 建築工事は、住宅やビル、商業施設といった「建物そのもの」を建設する工事を指します。
主に人が居住・利用する空間をつくることが目的です。 これに対してプラント工事は、工場や発電所などの施設内にある「生産設備」を構築する工事を指します。
配管や機械装置、電気・制御システムなど、工場機能の中枢を支える設備群を設置・組み上げるのが役割です。
建築工事が「箱」をつくる仕事なら、プラント工事は「箱の中身=機能」をつくる仕事と言えます。それぞれ求められる技術や工程も大きく異なるため、専門知識が必要となります。
プラントの主な種類
プラントで生産されるものには、私たちが日常的に目にする製品もあれば、直接触れる機会は少ないものの、暮らしを支えているものも多く存在します。
ここでは、プラントを5つの種類に分けて解説します。
製品製造系プラント
製品製造系プラントは、石油・化学・製鉄・非鉄金属など、原料を加工・成形して製品を生み出すプラントです。
例としては、食品、医薬品、化学製品、工業用材料などが挙げられます。 生活に欠かせない製品を供給するため、「産業プラント」と呼ばれることもあります。
エネルギー系プラント
エネルギー系プラントは、火力、ガス、水力、原子力などを利用してエネルギーを供給するプラントです。
作り出される主なものは電気エネルギーであり、一般的に「発電所」と呼ばれる施設もこの分類に含まれます。
また、風力、太陽光、地熱といった再生可能エネルギーや、他施設から排出される熱エネルギーを再利用するプラントもあります。
環境系プラント
環境系プラントは、ごみ処理、水処理、リサイクルなど、廃棄物や水資源を処理・再利用するためのプラントです。
新たにものを作るのではなく、人体や環境への影響を最小限に抑えることを目的としています。
具体的な施設には、ゴミ処理施設、産業廃棄物処理場、浄水処理施設、下水処理施設、淡水化施設、工業用純水施設などがあります。
社会インフラ系プラント
社会インフラ系プラントは、社会の基盤を支えるインフラ設備を整備・運用するプラントです。
例として、上下水道施設、交通関連施設、防災施設などが挙げられます。
上下水道施設や発電関連施設などは、環境系プラントやエネルギー系プラントとしても分類されますが、同時に社会インフラ系プラントとしての側面も持っています。
造船・重機・重電系プラント
造船・重機・重電系プラントは、重工業や大型機械、発電機器の生産に特化した大規模設備を備えるプラントです。
造船設備やタービン・ボイラー製造設備、大型機械生産設備などが該当します。
これらのプラントでは、大型かつ重量物の製造・運搬を効率的に行うため、建屋・設備・装置が一体化した設計が求められます。
プラント設計の業務内容
プラント設計とは、石油、化学、鉄鋼、電力、水処理などの大規模な生産施設(プラント)を計画・設計する仕事です。
設計段階から試運転まで、幅広い業務を段階的に担当するのが特徴です。具体的な流れを見ていきましょう。
主な業務 | 業務内容 |
---|---|
見積・基本設計 | 発注者の要望をもとに、装置の種類や配置・サイズを仮決定 必要な設備や費用の見積もりを実施 |
詳細設計 | 基本設計をもとに、実際の建設・製造に必要な図面や仕様書を作成 配管・電気・制御・土木などの専門分野ごとに詳細な設計を行う |
機器調達・製作確認 | 機器が設計仕様どおりに製作されているかを工場や現場で確認・検査 |
建設工事 | 現場で設計通りに工事が進んでいるかを確認し、必要に応じて指示を出す |
試運転 | 完成後のプラントで機器や装置の稼働を確認 安全性・性能を検証し、不具合があれば調整して正式な引き渡しまで対応 |
プラント建設プロジェクトは、基本設計とその内容に基づく見積作成から始まります。
プロジェクトが進むにつれて、詳細設計、機器・資材の調達、施工、試運転へと順に進んでいきます。
プラント設計業務の種類
プラント設計業務は、大きく分けて以下の2種類に分類されます。
- 基本設計:プラントを構成する装置の組み合わせを考え、構造や配置を決定する
- 詳細設計:基本設計に基づき、土木・建設・電力・制御システムなどを設計する
設計業務が完了すると、次はメーカー工場で機器が指示通りに製作されているかをチェックします。建設が始まった後も、定期的に現場へ出向き、設計図通りに施工されているか、不具合が発生していないかを検査します。
さらに、試運転でプラントの性能・品質を確認することも設計者の重要な役割のひとつです。安全に稼働していることを確かめたうえで、発注者への正式な引き渡しを行います。
出典:プラント設計技術者 - 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
プラント建設の特徴とやりがい
プラント建設は、規模の大きさや複雑な設備構成が特徴であり、他の建設分野とは異なるやりがいがあります。
単なる施設の建設にとどまらず、将来の運用や社会インフラの維持にも携わるため、技術者としての成長や社会への貢献を実感することができます。
ここでは、プラント建設の特徴とやりがいについて詳しく解説します。
大規模プロジェクトに携わるやりがい
プラント建設では、比較的大規模なプロジェクトに携わることができるため、大きなやりがいを感じられる仕事です。
プラントは規模が大きく、設備も複雑に組み合わさるため、設計・建設の範囲が広がり、多様な専門知識が求められます。
技術を深く掘り下げたい人や、スケールの大きな仕事に携わりたい人にとっては、自身の知識やスキルを存分に活かせるため、大きなやりがいを感じられるでしょう。
運用まで見据えた建設計画に携われる魅力
プラントは、建設が完了した段階で終わりではありません。設備や装置を安定して稼働させるため、品質管理や安全確保のための調整・メンテナンスが欠かせないのも大きな特徴です。
単に施設をつくるだけでなく、将来的な運用までを見据えて計画・構築する点に、プラント建設ならではの魅力があります。
社会への貢献を実感できる
プラント建設は、社会全体や人々の生活を支える存在であることを実感できる仕事でもあります。
エネルギー供給やインフラ整備といった分野は、私たちの暮らしに欠かせないものであり、それらを支えるプラント建設には、高度な専門技術と責任感が求められます。
日常生活では見えにくい存在ですが、使命感と誇りを持って取り組むことができるでしょう。
成長し続ける環境でスキルを磨ける
社会の変化や技術の進歩とともに、プラント建設に携わる人や企業も絶えず成長していく必要があります。
こうした成長環境に身を置くことも、プラント建設に携わる大きなやりがいのひとつと言えるでしょう。
プラント建設業界で活躍するための資格
プラント建設やプラント設計など、プラント関連業務に従事する際、資格を取得しているとキャリアアップにおいて有利に働きます。
ここでは、プラント業界で活躍するために役立つ代表的な資格を3つ紹介します。
技術士
技術士とは、「科学技術に関する高度な専門知識と実務経験を持つ技術者」に与えられる国家資格です。
技術士は、機械部門、航空・宇宙部門、建設部門など21の部門に分かれています。
その中でも、プラント設計に関わる分野は幅広く、建設・機械・化学・環境・衛生工学・上下水道が挙げられます。プラントの種類によって必要な分野は異なるため、業務内容に応じた分野の技術士資格を取得する必要があるでしょう。
技術士の第一次試験を受けるには、年齢や学歴、国籍や実務経験は問われません。
ただし、大学の工学や農学、理学などのエンジニアリング過程の試験内容が出題されるため、充分に対策しておく必要があります。
本格的な技術士になるには、第二次試験に合格しなければなりません。試験内容は、筆記試験から口頭試験の順で実施されます。
建築士
建築士は、建築士法に基づいた建築物工事の設計や監理を行うことができる国家資格です。
建築士には以下の3つの種類があり、プラント設計に携わるには一級建築士の資格が求められる傾向にあります。
- 一級建築士:制限なく、さまざまな建築物の設計ができる
- 二級建築士:一定の制限内で、建築物の設計ができる
- 木造建築士:木造建築の設計ができる
いずれの試験も年に1回実施され、試験は「学科」と「設計製図」の2段階で構成されています。
学科試験に合格しなければ、製図試験には進めません。 建築士は、資格の種類によって、それぞれ設計できる建築物の範囲が異なります。一級は制限なく、二級は中規模まで、木造は小規模な木造建築に限定されます。
施工管理技士
施工管理技士は、建設工事で現場を管理するために建設業法によって定められた国家資格です。
資格の種類は、建築・土木・管工事・電気工事などの7つに分けられ、さらに1・2級の等級があります。
プラント建設では、携わるプラントの種類によって必要な施工管理技士の資格は異なります。
年1回実施される資格試験を受けるには、経験年数や指定学科卒業などの条件を満たさなければなりません。 1級施工管理技士の資格があれば、施工現場に配置される監理技術者として従事することができます。
プラントに関わる会社
ここでは、プラントに関わる会社の代表的な4つの会社を確認していきましょう。
一口にプラント建設・プラント設計といっても業務の内容やスタイルが異なるため、事前に把握しておくことは大切です。
プラントエンジニアリング会社
プラントエンジニアリング会社は、プラント事業における設計・施工・運営・維持管理を専門的に担う企業です。
プラント業界特有の分野であり、特定機器の施工や運用に関する高度な知識を活かして業務に従事します。
総合重機メーカーがプラントエンジニアリング部門や子会社を持つケースも珍しくありません。 設計からメンテナンスまで一貫して手がける場合もあり、プラント建設において不可欠な存在です。
工事会社
工事会社は、サブコンやプラントエンジニアリング会社からの依頼を受け、設計図に基づき現場で工事作業を行う企業です。
配管、機械据付、内装、足場など、専門分野ごとに特化した専門工事会社が存在し、職人を直接雇用している場合もあります。
また、元請や上位下請の指示を受け、現場作業員を管理・監督することも重要な役割です。プラント建設では、特殊な装置や重機の設置を担当する専門工事会社が関わることもあります。
プラントメンテナンス会社
プラントメンテナンス会社は、引き渡し後の設備の点検・保全・改善を担当し、プラントの安定稼働を支える役割を担います。
プラントは、建設後も安全かつ効率的に運用し続けることが重要なため、多くの場合、メンテナンス契約を結んでいます。 なお、設計・施工を手がけたサブコンやプラントエンジニアリング会社が、引き続き保守業務を担当するケースも見られます。
サブコン
サブコン(サブコンストラクター)とは、空調・電気・衛生設備など特定分野の設備工事を設計・施工する企業を指します。
通常は、ゼネコン(ゼネラルコンストラクター)から分野別の工事を請け負う形で業務を行います。
ゼネコンの監督下で、専門領域の設計・施工を担当し、場合によっては施工後の保守・メンテナンスまで引き受けることもあります。
サブコンに入社してプラント建設に関わる場合は、専門性の高さに加え、ゼネコンや施主、協力業者との円滑なコミュニケーション力も求められるでしょう。
プラントに関してよくある質問
建設業界で仕事を探す際、プラントに関してさまざまな疑問が浮かぶこともあるでしょう。
プラントに関する基礎知識を身につけておくことは、就職活動やキャリアアップにも役立ちます。ここでは、よくある質問を2つ紹介します。
日本の三大プラントメーカーは?
日本国内で「三大プラントメーカー」と言われているのは、「日揮ホールディングス」「千代田化工建設」「東洋エンジニアリング」の3社です。
会社名 | 売上高 | 設立 | 特徴 |
---|---|---|---|
日揮ホールディングス |
8,580億円 (2025年3月期) |
1928年 | グローバル展開(世界80ヵ国以上で2万件以上のプロジェクト) |
千代田化工建設 |
5,060億円 (2024年3月期) |
1948年 | 世界的なシェアの高さ(LNG分野では48%の世界シェア) |
東洋エンジニアリング |
2,781億円 (2025年3月期) |
1961年 | 国内外企業の海外進出サポート |
連結売上高の数字は、業界内に明確な階層構造が存在することを示しています。
日揮ホールディングスが約8,600億円と頭一つ抜けた存在であり、次いで千代田化工建設が約5,000億円、東洋エンジニアリングが約2,800億円と続きます。
出典:プラント会社とは 日揮・千代田化工・東洋エンジが大手 - 日本経済新聞
出典:金融庁|EDINET
建設業におけるプラントとは?
建設業における「プラント」とは、大規模かつ複雑な生産設備が一体となった工場設備全体を指します。
プラントで生産されるのは、一般的な製品ではなく、工業材料やエネルギーなど特殊なものが中心です。
また、「プラント建設」とは、産業施設の設計・建設に加え、試運転や運用管理まで含む業務を指します。
単に建物を施工したり機械器具を設置するだけでなく、システム全体を構築し、適切に稼働させることが求められます。
まとめ:プラントを理解した上で就業先を選ぼう
プラントとは、機械や装置が一体となって稼働する工場設備全体を指します。
種類は製造系・エネルギー系・環境系・インフラ系・重機系の5つに分類されます。
設計業務では、基本設計や詳細設計に加え、施工や試運転のチェックまで担当するのが一般的です。 プラント設計者の就職先としてはプラントエンジニアリング会社、建設会社、メンテナンス会社などが挙げられます。
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