工事請負契約書は、発注者と受注者で対等な契約を締結し、トラブルを回避する重要な目的をもつものです。工事請負契約書の記載事項は、建設業法で16の項目が定められています。しかし、工事請負契約書を作成するにあたり、トラブルを回避するために注意すべき点がいくつかあります。今回は、工事請負契約書の必要性と16項目の記載事項、記入例、トラブル回避のポイントについて解説します。
■工事請負契約書の必要性と記載事項
工事請負契約書の基礎知識と必要性を踏まえ、書面に記入する記載事項を見ていきましょう。
◇建設工事の請負には工事請負契約書が必須
工事請負契約書は、建設工事を発注者から受注する際に作成する義務がある書類です。住宅建設やリフォーム、規模の大小や建設業許可の有無に関わらず、工事請負契約書の作成が義務化されています。
契約を締結する際は「双方が対等な立場にある」ことが建設業法第18条で定められています。なぜなら、建設工事は金額が大きい、工期が長い、発注者と受注者で情報の偏りがある、といった点でトラブルに発展しやすいためです。発注者側が一方的に有利になる契約や、工事内容や支払い期日、追加工事などの詳細を記載しないなど、最悪の場合は訴訟になる可能性も否定できません。
つまり、工事請負契約書は、不平等な契約や着工後のトラブルを回避するという重要な役割があるのです。
◇工事請負契約書に必要な記載事項
1. 工事内容
2. 請負代金の額
3. 工事着手の時期及び工事完成の時期
4. 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
5. 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
6. 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
7. 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
8. 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
9. 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
10. 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
11. 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
12. 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
13. 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
14. 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
15. 契約に関する紛争の解決方法
16. その他国土交通省令で定める事項
上記16項目のなかの4つめの項目は、2020年10月施行の建設業法改正で追加されたものです。建設業界の課題とされている、「長時間労働を抑制する」ことを目的にしています。
工事を施工しない日は土日や祝日、大型連休、夏季・冬期の休暇など、一般的な休業日を書面で定めることが可能です。
■基本的な工事請負契約書の書き方
先に述べたように、建設業法では工事請負契約書に16項目の記載事項が定められています。しかし、実際に工事請負契約書を作成する場合、16項目のすべてを記載するケースはほとんどありません。そこで、実際にやりとりする、基本的な8項目を記載した工事請負契約書の記入例を紹介します。
建設工事請負契約書
一、工 事 名 ○○建設工事
二、工事内容 添付の図面No.○~○、仕様書No.○~○のとおり
三、工事場所 ○○県○○市○○
四、工 期 着手 契約の日から ○○日以内 工事許・認可の日から ○○日以内 完成 着手の日から ○○日以内 令和○○年○○月○○日 引渡 令和○○年○○月○○日
五、請負代金 ○○○○○○○○円 (うち取引に係る消費税及び地方消費税額)○○○○○○○円
六、支払方法 発注者は請負代金を次のように受注者に支払う。 この契約成立のとき ○○割
部分払 第二回 ○○割 完成引渡しのとき ○○割
七、調停人 ○○株式会社 代表取締役○○ 印
八、その他 この契約の証として本書二通を作り、発注者及び受注者が署名押印の上、各一通を保有する。
令和○○年○○月○○日
住所 ○○県○○市○○ 発注者 △△ △△ 印
住所 ○○県○○市○○ 受注者 □□ □□ 印
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これはあくまでも記入例であり、工事請負契約書に決まった書式はありません。インターネットでダウンロードできる、ひな形を使用してもいいでしょう。ただし、無料のひな形は請負側に不利な内容もあるので、項目をしっかり確認することが大切です。
■トラブルを回避!工事請負契約書を作成する際の注意点
工事請負契約書を作成するにあたり、トラブル回避に必要な5つのポイントを紹介します。
◇工事延期の違約金
さまざまな事情で工事を延期する場合、違約金を適切な価格で設定する必要があります。
標準約款第23条によると、違約金は標準約款に年14.6%で請求が可能と定めています。しかし、法律上では、工事延期で年5~6%で計算することとされており、標準約款と大きな差があります。標準約款で契約を締結した場合、最悪赤字になる可能性も否定できないため、契約の締結前の双方でしっかり相談しましょう。
◇工期の延長
工期の延長が必要な規定を明確に決めておきましょう。
標準約款第21条には、工期の延長は「不可抗力または正当な理由があるとき」とあります。しかし、不可抗力とする理由に、天候不順や施主の仕様決定の遅れといったケースが認められるのか、という点が不透明です。
それに加え、標準約款では工期の延長を発注者と協議して決めるとされています。場合によっては延期が認められないばかりか、違約金が発生する可能性も否定できません。工事請負契約書を作成するにあたり、天候不順などのやむを得ない事情に対し、発注者の承諾がなくても工期の延長が可能になるように定めておくことが大切です。
◇追加工事代金の請求
追加工事が発生した際に、追加工事代金を請求しやすい内容で工事請負契約書を作成することが重要です。
標準約款第20条2項では、追加工事も「両社で協議して定める」とあります。協議の結果、発注者の承諾が得られないと、追加工事代金を請求できないのです。そのため、発注者の承諾がなくても追加工事代金が請求できるよう、追加工事代金の支払い義務、代金の決め方などを決めておきましょう。
◇近隣のクレーム対応
建設工事が原因で、近隣住民からクレームが入るケースも少なくありません。クレームに対応するため、工事の中断、または工期の延期をあらかじめ決めておく必要があります。
標準約款第12条では、クレームがあっても工事の中止や延長ができない仕組みになっています。この場合、クレーム対応でも違約金が発生するため、工事請負契約書で工事中断、工期の延期を記載しておきましょう。
◇想定外の費用の対応
当初に予定していなかった費用が発生する場合、その費用を請求できるように記載することが大切です。想定外の費用とは、地中障害物や埋蔵文化財の発見、土壌汚染などが挙げられます。
標準約款第9条4項ではこれらの費用も両者の協議で決めるとされており、承諾が得られないと追加費用を請求できないのです。そのため、工事請負契約書に、追加費用の支払い義務、追加工事契約書がない場合でも費用を請求できるようにしておきましょう。
■まとめ
工事請負契約書は発注者と受注者の間で不利な契約を結ばず、トラブルを回避する重要な書類です。建設業法で16項目の記載事項が定められていますが、実際にはこれらのうちの8項目で書面を作成することが一般的です。しかし、標準約款に従った場合、受注者に不利な契約を結ぶおそれがあります。違約金の率、不可抗力による工期の延期、クレーム対応による工事の中断・延期、想定外の追加費用は、特に注意して内容を決めることが大切です。
場合によっては多額の違約金を支払うことになったり、赤字になったりする可能性も考えられます。トラブルを未然に防ぐため、工事請負契約書は標準約款ではなく、双方で相談して作成することをおすすめします。