技術士について定める技術士法において、将来技術士になる人材の称号となる「技術士補」という国家資格があることをご存じでしょうか?現在さまざまな理由で技術士補の在り方が問われており、廃止も検討されています。
今回は、技術士と技術士補の概要を踏まえ、技術士補廃止の検討理由と今後の動向について解説します。
■技術士と技術士補の基礎知識
技術士資格と技術士補について、基礎知識を見ていきましょう。
◇技術士とは?
技術士とは、科学技術の専門知識と応用能力を有する、技術者を育成する国家資格です。技術士法という法律により、高い技術者理論を備えることと、資質能力の向上に継続して努める責務があります。
技術士はさまざまな科学技術の分野をカバーしており、以下のように21もの技術部門が存在します。
技術士部門 |
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1 |
機械部門 |
12 |
農業部門 |
2 |
船舶・海洋部門 |
13 |
森林部門 |
3 |
航空・宇宙部門 |
14 |
水産部門 |
4 |
電気電子部門 |
15 |
経営工学部門 |
5 |
化学部門 |
16 |
情報工学部門 |
6 |
繊維部門 |
17 |
応用理学部門 |
7 |
金属部門 |
18 |
生物工学部門 |
8 |
資源工学部門 |
19 |
環境部門 |
9 |
建設部門 |
20 |
原子力・放射線部門 |
10 |
上下水道部門 |
21 |
総合技術監理部門 (※第二次試験のみ実施) |
11 |
衛生工学部門 |
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なお、技術士の全部門のうち、受験者数が群を抜いて多いのが「建設部門」です。令和2年度の第一次試験における受験者数は1万4,594人、建設部門は7,284人と約半数を占めています。第二次試験では、全受験者数2万365人中、建設部門は1万1,763人と、こちらは半数を超えています。
建設部門が全部門でトップの受験者数を誇っているのは、建設業界にとって技術士が特別な資格である表れでしょう。技術士を取得すれば、お客様からの信頼度が高まる・大規模なプロジェクトに携われるなど、建設業界のプロフェッショナルと認められます。
◇技術士補とは?
技術士補とは、将来技術士になる人材を育成することを目的とした、国家資格のことです。
技術士補には技術士を補佐する役割があり、技術士の第一次試験に合格すると技術士補の登録が可能になります。技術士補に登録するメリットは、第二次試験の受験資格を最短で4年に短縮できることでしょう。技術士補に登録しない場合、7年を超える実務経験が必要です(条件付きで4年を超える場合になる場合もあり)。
なお、技術士の第一次試験には年齢・実務経験などの受験資格はなく、誰でも受験できます。
■技術士補廃止が検討されている理由
現在、技術士補の制度そのものを継続するか、廃止するかといった技術士補の在り方が検討されています。技術士補の廃止が検討されている理由として、指導する技術士が少ないことや、技術士補の登録後に第二次試験を受験するケースが少ないことが挙げられます。
第二次試験を受けるには、技術士補に登録後、指導者となる技術士のもとで経験を積むことが必要です。しかし、現状は指導者となる技術士が少なく、指導技術士の確保が困難といえます。指導技術士が少ない要因としては、「合格した部門と同一部門」という規定が大きく影響しています。
さらに、技術士補に登録したうえで実務経験を積み、第二次試験を受験する割合は、2018年度で申込者全体のわずか1.2%にとどまっています。
一方、同じく2018年の第二次試験において、7年以上の実務経験を経て受験した人は「95%」です。つまり、大多数は実務経験年数の要件を満たしており、技術士補を登録する必要性が薄れているため、技術士補自体の存在意義が問われているのです。
■技術士補の今後の動向とは?
技術士補の在り方が問われるなか、2019年3月末時点で約3万6,000人、年間約2,300人が技術士補に登録しています。このように技術士補は一定のニーズがあるため、技術士補を完全に廃止するのではなく、課題を改善する見直しが検討されています。
そこで、技術士補の検討事項と、技術士補における今後の動向を見ていきましょう。
◇修習技術士の名称変更
技術士補という名称から、「修習技術士」と名称を変更するという意見が多いようです。そもそも技術士補は、技術士を目指すための資格ですが、技術士補として一定の業務が行なえるという認識の違いが生じていました。
技術士補の制度を廃止するのではなく、名称変更により技術士になるためのステップという目的を明確にすることを目的としています。
◇技術士補の登録期間の制限
技術士補に登録してから技術士になった人は、12年目までに第二次試験に合格しています。一方、15年を超えると技術士になる数が極端に減るため、技術士補として活動できる期間を15年程度に制限する案が出ています。
15年の期限を過ぎた場合、技術士補の効力を失うとすることで、第二次試験の受験を促す効果が期待できるでしょう。
◇指導技術士の見直し
先に述べたように、指導技術士が確保できていないため、指導技術士のもとで経験を積んでから技術士になる人は多くありません。指導技術士は「合格した第一次試験の技術部門と同一の技術部門とする」という規定があるため、簡単に見つけにくいのが現状です。
技術士補の存続とは別に、指導技術士の部門を限定しない方向で見直されています。
■まとめ
技術士は科学技術の技術者を育成する国家資格であり、将来の技術士を育成するのが技術士補という資格です。技術士補に登録し、指導技術士のもとで4年以上の経験を積むと第二次試験の受験資格が得られます。
しかし、指導技術士の確保が困難であるうえ、大多数が技術士補に登録せず、7年以上の実務経験で2次試験を受験していることから、技術士補の廃止が検討されています。
ただし、技術士補の登録者も一定数いるため、修習技術士への名称変更、技術士補の登録期間の制限、指導技術士の部門を見直すなど、部分的な変更や改善にとどまりそうです。
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