施工管理技士とは、建設現場における工程、品質、安全などを管理する国家資格です。
近年の建設業界は景気を取り戻しつつある反面、施工管理技士の深刻な人手不足が問題となっています。
特に、若手の施工管理技士が不足している状況ですが、その背景にはどのような理由があるのでしょうか。
今回は、若手の施工管理技士が不足している理由と国の対策、転職する際のポイントについて解説します。
施工管理は若手人材が不足している
厚生労働省の『新規学卒就職者の離職状況』によると、2021年3月に建設業へ就職した新卒者の3年以内離職率は35.6%でした。
学歴別では高卒43.2%、短大等卒41.5%、大卒30.7%で、高卒・短大等卒は全産業平均を上回っています。
特に小規模事業所ほど離職率が高く、5人未満では59.1%に達します。
一方で、2003年卒と比べると全学歴で離職率は低下傾向にあり、職場定着支援や離職者への再就職支援が継続的に行われています。
施工管理職は若手の人材不足が深刻化?5年目までに辞める原因
施工管理職では、若手人材の確保が業界全体の重要課題となっています。
少子化や採用競争の激化、技術革新によるスキル要件の変化など、背景にはさまざまな要因があります。ここでは、その主な理由を分かりやすく解説します。
1. 若手の応募者そのものが少ない
少子化の進行により、就職活動を行う若年層の人数は年々減少しています。
そのため、施工管理職を志望する人の母数も自然と限られてしまい、採用競争が激しくなっています。
しかし、建設業界は社会インフラや街づくりに直接関わるやりがいのある仕事が多く将来性のある分野です。近年では働き方改革やデジタル化の推進により、以前よりも働きやすい環境づくりが進んでいます。
企業としては、仕事内容や成長機会を具体的に伝え、学生や若年層に業界の魅力を積極的に発信することで、応募者層の裾野を広げられる可能性があります。
出典:「今後の若年者雇用に関する研究会」報告書 厚生労働省
出典:令和4年度 少子化の状況及び少子化への対処施策の概況|こども家庭庁
2. ベテランが定年を迎え、若手の育成が困難
施工管理の現場では、長年経験を積んできたベテラン層が団塊世代を中心に定年を迎える時期に入っています。
豊富な現場知識や技術力は、若手にとって貴重な学びの源であり、これらを引き継ぐことは業界全体の課題です。
若手の教育体制が十分に整っていない現場もあり、その結果として若手が業界から離れてしまうケースも見られます。
世代交代は若手にとって責任ある仕事を早期に任される機会が増えることを意味します。企業側は、OJTやメンター制度などを活用し、ベテランから若手へのスムーズな技術継承を進めることが重要です。
この流れを前向きに捉え、早期育成によって将来の中核人材を育てるチャンスにもなります。
出典:中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドライン|中小企業庁
3. 新しい技術への対応ハードル
近年、建設業界ではICT施工やBIM/CIMといったデジタル技術の導入が急速に進んでいます。これにより、施工管理職には従来の現場管理スキルに加え、デジタルツールやソフトの活用力が求められるようになりました。
しかし、すべての現場で新技術の教育環境が整っているわけではなく、習得に苦労する若手も少なくありません。
十分なサポートが得られないまま業務を進めることで自信を失い、やりがいを感じる前に離職してしまうケースもあります。
企業側が研修やOJTで技術習得を支援し、若手が成長を実感できる環境を整えることが、定着率向上につながるでしょう。
4. 勤務地や働き方の条件が合わない
施工管理職は、全国各地の現場を担当することが多く、勤務地や勤務形態が応募者の希望と合わない場合があります。
特に地元志向の強い若手や家庭の事情を抱える人にとって、長期出張や転勤の頻度は入職・継続のハードルとなりがちです。
また、配属条件や勤務体系が事前に十分説明されない場合、ミスマッチによる早期離職につながる恐れもあります。
企業が地域限定採用や短期出張型の勤務制度など柔軟な働き方を導入し、配属条件を明確に伝えることで、応募時の不安を減らし、若手の定着につなげられます。
大手ゼネコンでも施工管理職の若手が辞めていくのはよくあること
新卒の20代で大手ゼネコンに入社しても、さまざまな要因で離職したり、転職を考えたりするケースが多くあります。
退職する理由は人それぞれ異なりますが、次のようなパターンが多いようです。
収入アップやキャリアアップ
施工管理技士は需要がある仕事といっても、給与などの待遇面は会社によって異なります。
経営状況の良し悪しも影響するので、同業他社に施工管理技士として転職するケースも珍しくありません。
会社の雰囲気や人間関係
会社の雰囲気や仕事のやり方、上司との人間関係など、実際に勤務しないと分からないものです。
ベテラン施工管理技士との関係は、若手の施工管理技士にとって悩みの種になることもあるようです。
しかし、人間関係が上手く築けないという問題は建設業界に限ったことではなく、企業で働く上で発生しやすい問題といえます。
人間関係を上手に築くことができれば、これを理由に退職することは避けられるでしょう。
また、これら以外では本人の病気や家族の介護など、やむを得ない理由が挙げられます。
施工管理職の若手不足に対する国の対策・取り組み
現在の施工管理技士が高齢で引退する中、若手の施工管理技士をいかに増やすかが国にとって重要な課題です。
その課題を解決するために、国では「建設業働き方改革加速化プログラム」という対策を打ち出しています。
このプログラムは若手や団塊世代の離職を見据え、建設業界における働き方を変えるための取り組みです。
「長時間労働の是正、適正な給与、生産性の向上」という3つの分野を見直して建設業界をより働きやすい環境にし、人手不足を解消する効果が期待されています。そして、この3つの分野の具体的な内容は次の通りです。
1. 長時間労働の是正
長時間労働を見直すことを目的として、週休2日制を導入するという取り組みを推進しています。
週休2日制を実現させるために、労務費、機械経費、共通仮設費、現場管理費といった経費を計上し、補正率の見直しを行うものです。
ただし、災害復旧や維持工事、工期に制約がある工事は対象外になります。
2. 適正な給与
建設業界の給与水準は上昇傾向にありますが、技能者の給与は製造業よりも低いという問題点があります。
給与を改善するために、経験や知識、実務における能力、これまでの就業実績、社会保険の加入状況などを評価する「建設キャリアアップシステム」を導入しました。
個人の能力やレベルを見える化することに加え、累積している就業実績に応じて、ふさわしい待遇を与えることが可能とされています。
3. 生産性の向上
国土交通省では、建設生産システムの生産性向上を図るため、i-Construction(アイ・コンストラクション、以下ICT)の活用を推進しています。
ICTを導入することで、これまで人の手で行っていた作業を効率化でき、限られた人員でも高品質な施工が可能になります。
- ✓ 調査・測量・設計
- ✓ 施工管理・監督検査
- ✓ 維持管理
- ✓ 建設業許可等の申請手続きを電子化
- ✓ 工事書類を作成する負担を軽減
国土交通省は、i-Constructionの推進により調査・測量・設計、施工管理、維持管理などをICT化し、生産性向上を図っています。
これにより限られた人員でも業務効率化が可能になりますが、若手の離職や人材不足の解消には直結しません。
その背景には、建設業界に対する「給料が安い・休暇が少ない」などの負のイメージがあり、業界全体でのイメージ改善や待遇向上が不可欠です。
施工管理職の若手人手の不足はチャンスでもある
建設業界は人手不足の状況ですが、逆をいえば転職するチャンスを掴みやすいといえます。
特に、20代の施工管理技士はどの企業ものどから手が出るほど欲しい人材であり、希望する企業に転職しやすい「売り手市場」の状態です。
需要があって人手不足である現在の建設業界なら、高い給与の企業に転職できる絶好のタイミングといえるでしょう。
また、施工管理技士としてしっかりした企業に就職すると、とてもやりがいのある仕事だと理解できるはずです。後世に残るものづくりに携われるという点は、建設業界ならではの魅力といえます。
施工管理技士として転職するポイント
施工管理技士として転職するにあたり、国家資格を取得しておくと転職に有利になります。
しかし、未経験から建設業界に入社し、働きながら資格を取ることも可能です。
建設業界は覚えることが多く大変な面もありますが、チャレンジする価値は大いにあるといえるでしょう。
また、施工管理の仕事は実務経験を要視する傾向があるため、経験者であればほぼ確実に転職できるはずです。
待遇面も交渉次第でより良くすることもできるので、需要が高い施工管理技士として長く働く、という選択肢も視野に入れてみてはいかがでしょうか?
まとめ
施工管理技士を含めた建設業界は、需要が高まっている反面、人手不足という問題を抱えています。
待遇面の改善や生産性の向上といった国の対策に加え、イメージアップの対策をさらに推進すれば、施工管理技士を目指す若者が増えるといえるでしょう。
また、需要が高い施工管理技士は、今よりも高い給与で転職できる絶好のタイミングです。
未経験からでも施工管理技士になれるので、建設業界にチャレンジする価値は高いといえるでしょう。