施工管理技士とは、建設現場における工程、品質、安全などを管理する国家資格です。近年の建設業界は景気を取り戻しつつある反面、施工管理技士の深刻な人手不足が問題となっています。特に、若手の施工管理技士が不足している状況ですが、その背景にはどのような理由があるのでしょうか?今回は、若手の施工管理技士が不足している理由と国の対策、施工管理技士として転職するポイントについて解説します。
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■施工管理は若手が不足している
リーマンショックで一時期は冷え込んだ建設業界ですが、災害の復興事業や東京オリンピックなどの特需により、現在は好景気といえる状態です。しかし、低迷していた期間が長かったことが影響し、建設業界から離職してしまった技術者も少なくありません。人手が減っているところに特需が発生したことで、「仕事はあるが人がいない」というのが建設業界の現状です。
また、若手の施工管理技士が特に不足しているのは、離職率の高さが大きな要因です。建設業界に入職する若手は増えている反面、新卒入社で3年目までに離職する率は約30% と、各業種の中で比較的高い水準にあります。
一方、現在の施工管理技士は高齢化が進んでおり、引退による技術者の減少は避けられません。若手の施工管理技士を増やし、いかに確保するかが、現在の建設業界における課題といえるでしょう。
また、戸建住宅以外の建設現場では、施工管理技士資格の要件である「監理技術者・主任技術者」を持つ技術者を配置することが義務付けられています。施工管理技士が減少すると建物を建設することが難しくなり、業界全体にとって大きな問題となるのです。
■大手ゼネコンでも若手が辞めていくのはよくあること
新卒の20代で大手ゼネコンに入社しても、さまざまな要因で離職したり、転職を考えたりするケースが多くあります。退職する理由は人それぞれ異なりますが、次のようなパターンが多いようです。
◇収入アップやキャリアアップ
施工管理技士は需要がある仕事といっても、給与などの待遇面は会社によって異なります。経営状況の良し悪しも影響するので、同業他社に施工管理技士として転職するケースも珍しくありません。
◇会社の雰囲気や人間関係
会社の雰囲気や仕事のやり方、上司との人間関係など、実際に勤務しないと分からないものです。ベテラン施工管理技士との関係は、若手の施工管理技士にとって悩みの種になることもあるようです。
しかし、人間関係が上手く築けないという問題は建設業界に限ったことではなく、企業で働く上で発生しやすい問題といえます。人間関係を上手に築くことができれば、これを理由に退職することは避けられるでしょう。
また、これら以外では本人の病気や家族の介護など、やむを得ない理由が挙げられます。
■若手不足に対する国の対策
現在の施工管理技士が高齢で引退する中、若手の施工管理技士をいかに増やすかが国にとって重要な課題です。その課題を解決するために、国では「建設業働き方改革加速化プログラム」という対策を打ち出しています。
このプログラムは若手や団塊世代の離職を見据え、建設業界における働き方を変えるための取り組みです。「長時間労働の是正、適正な給与、生産性の向上」という3つの分野を見直して建設業界をより働きやすい環境にし、人手不足を解消する効果が期待されています。そして、この3つの分野の具体的な内容は次の通りです。
◇長時間労働の是正
長時間労働を見直すことを目的として、週休2日制を導入するという取り組みを推進しています。週休2日制を実現させるために、労務費、機械経費、共通仮設費、現場管理費といった経費を計上し、補正率の見直しを行うものです。ただし、災害復旧や維持工事、工期に制約がある工事は対象外になります。
◇適正な給与
建設業界の給与水準は上昇傾向にありますが、技能者の給与は製造業よりも低いという問題点があります。
給与を改善するために、経験や知識、実務における能力、これまでの就業実績、社会保険の加入状況などを評価する「建設キャリアアップシステム」を導入しました。個人の能力やレベルを見える化することに加え、累積している就業実績に応じて、ふさわしい待遇を与えることが可能とされています。
◇生産性の向上
国土交通省では、建設生産システムの生産性向上を図る、i-Construction(アイ・コンストラクション・以下ICT)の活用を推進しています。ICTを活用すると、建設生産プロセスで必要不可欠な以下の業務を効率化することが可能です。
・調査・測量・設計
・施工管理・監督検査
・維持管理
・建設業許可等の申請手続きを電子化
・工事書類を作成する負担を軽減
これまでは人の手で行っていた業務を効率化できるので、限られた人材で生産性を向上する効果が期待されています。
しかし、これらの対策は若手の施工管理技士が離職する、新たな人材が増えないという問題をすべて解消するのは難しいといえるでしょう。なぜなら、建設業界の人手不足が解消しない要因の1つに、若者が建設業界に対して良くないイメージを持っているからです。
建設業界は、かつて3K(きつい・汚い・危険)と呼ばれていましたが、現在は(給料が安い・休暇が少ない・カッコ悪い)という6Kに変化しているといいます。建設業界のイメージアップに取り組み、若者が憧れるような職種になる必要があるでしょう。
具体的なイメージ改善策として、実際に建設業界で働く若手社員が魅力を紹介したり、子供向けに重機の試乗を実施したりするといった方法があります。
待遇面や週休2日制の導入といった改善は、若者のイメージアップに一役買うのは事実です。建物の建設に必要不可欠な施工管理技士という職種が待遇面で優遇される立場になると、若手の入職志望者も次第に増えるといえます。しかし、建設業界はいかに魅力がある仕事かを、業界全体で発信することも大切といえるでしょう。
■人手不足はチャンスでもある
建設業界は人手不足の状況ですが、逆をいえば転職するチャンスを掴みやすいといえます。特に、20代の施工管理技士はどの企業ものどから手が出るほど欲しい人材であり、希望する企業に転職しやすい「売り手市場」の状態です。需要があって人手不足である現在の建設業界なら、高い給与の企業に転職できる絶好のタイミングといえるでしょう。
また、施工管理技士としてしっかりした企業に就職すると、とてもやりがいのある仕事だと理解できるはずです。後世に残るものづくりに携われるという点は、建設業界ならではの魅力といえます。
◇施工管理技士として転職するポイント
施工管理技士として転職するにあたり、国家資格を取得しておくと転職に有利になります。しかし、未経験から建設業界に入社し、働きながら資格を取ることも可能です。建設業界は覚えることが多く大変な面もありますが、チャレンジする価値は大いにあるといえるでしょう。
また、施工管理の仕事は実務経験を要視する傾向があるため、経験者であればほぼ確実に転職できるはずです。待遇面も交渉次第でより良くすることもできるので、需要が高い施工管理技士として長く働く、という選択肢も視野に入れてみてはいかがでしょうか?
■まとめ
施工管理技士を含めた建設業界は、需要が高まっている反面、人手不足という問題を抱えています。待遇面の改善や生産性の向上といった国の対策に加え、イメージアップの対策をさらに推進すれば、施工管理技士を目指す若者が増えるといえるでしょう。また、需要が高い施工管理技士は、今よりも高い給与で転職できる絶好のタイミングです。未経験からでも施工管理技士になれるので、建設業界にチャレンジする価値は高いといえるでしょう。