「建築積算士ってどんな仕事をするの?」「受験資格や試験の難易度は?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。
建築積算士とは、建築工事にかかる費用を算出する「積算業務」を担う技術者に与えられる民間資格です。
発注者に適正な価格を提示し、赤字工事を防ぐ役割も担います。建設業界では専門性が高く評価されており、キャリアアップにもつながる資格だといえます。
本記事では、建築積算士の仕事内容や試験内容、資格取得のメリットなどを詳しく解説します。建設業界でスキルアップを目指す方や、建築積算士の資格に興味がある方はぜひ参考にしてください。
建築積算士とは?
建築積算士とは、建築工事にかかる費用を算出する「積算」に必要な知識やスキルを有する専門家です。建築工事の設計図や仕様書などに基づいて、部材ごとの材料費や労務費を推計し、建設費用の総額を算出します。 建設業者が建築工事の発注者に対し、価格を提示することは欠かせません。
このとき、提示した価格が適切でないと、工事を受注しても赤字になるおそれがあります。建築積算士には正確な建築費用の算出が求められるため、高度な知識やスキルが必要です。
建築積算士の資格は、公益社団法人日本建築積算協会から認定を受けています。建築積算士の有資格者がいると、公共事業の入札時の経営事項審査で加点されることもあるため、建設業界において需要の高いポジションです。
建築積算士は国家資格?
建築積算士は民間資格で、国家資格ではありません。1990年に国土交通省の大臣認定資格となり、それ以前は民間資格として制定されていました。 そして2001年には大臣認定が廃止され民間資格としての認定制度となり、現在まで継続して実施されています。
建築積算士の受験資格は満17歳以上で、高校生や大学生でも取得可能です。建設業界における就職に役立つ資格であることから、幅広い年齢層の人が受験しています。
建築積算士の資格
資格名 | 建築積算士 |
---|---|
主催団体・認定機関 | 公益社団法人日本建築積算協会 |
資格の区分 | 民間資格 |
出典: 公益社団法人 日本建築積算協会|2025年度「建築積算士」試験案内
建築積算士資格は、工事費における数量算出から工事費算定まで、積算業務に必要な知識を保有していることを証明できる資格です。
ゼネコンや建設会社の建築部門、営業部門、積算部門、現場管理担当者などで活かせます。
試験方法・出題範囲
建築積算士の試験は、一次試験と二次試験に分かれています。一次試験は基本知識に関する問題が主に出題され、二次試験は実務知識に関する問題が中心です。
建築積算士の試験は「新☆建築積算士ガイドブック」を基準に出題されます。「新☆建築積算士ガイドブック」は公益社団法人日本建築積算協会の発行する建築積算の知識や技術が体系的にまとめられた書籍です。
協会の公式サイト、またはAmazonから購入できます。 建築積算士の一次試験と二次試験の試験方法と出題範囲を下表にまとめました。
試験区分 | 試験方法 | 出題範囲 |
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一次試験 | 四肢択一 | 新☆建築積算士ガイドブック 全章 |
二次試験 | 短文記述試験 | 新☆建築積算士ガイドブックの第1章~第5章、第8章~第17章 |
実技試験 | 実技(図面作成等) | 新☆建築積算士ガイドブックの第5章~第8章、巻末の基準類 |
出典: 公益社団法人 日本建築積算協会|2025年度「建築積算士」試験案内
一次試験は、四肢択一で試験が実施され、出題範囲は「新☆建築積算士ガイドブック」の全章です。問題数は全部で50問あり、試験時間は3時間となっています。
二次試験は、短文記述試験と実技試験の2つに分かれています。短文記述試験は問題に200字以内の短文で回答します。問題数は2問あり、試験時間は1時間です。
二次試験の実技試験は、試験時間が4時間30分あり、図面に基づいて数量の計測・計算を行い、内訳明細を作成しなければなりません。 二次試験の採点では、短文記述問題と実技問題のいずれかの問題で得点がゼロの場合は、不合格になります。
建築積算士に必要な知識
建築積算士は求められる知識の幅が広いため、実務経験が少ないと合格は難しいとされています。
ただし、設計図書を読み解く力があり、試験対策を進めていけば合格できる可能性は十分あるでしょう。
No. | 建築積算士に必要な知識 |
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1 | 生産プロセス 建設産業の特徴と変遷および現状、コストマネジメントの考え方、建築生産プロセスとマネジメント |
2 | 工事発注スキーム 入札の種類、発注方式、契約方式、数量公開、発注単位(パッケージ) |
3 | 設計図書構成 設計図書構成と種類、優先順位 |
4 | 工事費構成 直接工事費と共通費の構成、主要建物用途の種目別工事費構成比率 |
5 | 積算業務内容 積算業務の流れ、積算実務(仮設、土工、躯体、仕上、設備、屋外施設、改修)、概算手法の概要、値入業務 |
6 | 数量積算基準 基準および同解説の理解 |
7 | 標準内訳書式 基準および同解説の理解 |
8 | 主要な市場価格 市場価格、コスト情報の入手方法 |
9 | データ分析と積算チェック データ整理、歩掛、分析方法、積算チェック |
10 | 施工技術概要 建築施工プロセス、標準的な施工法、特殊工法(省力化、工業化、工期短縮など)概要 |
11 | LCC・VE概要 LCC(ライフサイクルコスト)の概要、VE(バリューエンジニアリング)の概要 |
12 | 環境配慮概要 環境配慮とコスト概要 |
引用: 公益社団法人 日本建築積算協会|資格に求められる知識の具体例
建築積算士の資格の難易度は?
一次試験 | 64.7% |
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二次試験 | 59.5% |
出典: 公益社団法人 日本建築積算協会|2024年度 建築積算士 一次試験 実施結果
出典: 公益社団法人 日本建築積算協会|2024年度 建築積算士 二次試験 実施結果
建築積算士の試験の合格率は、2024年度の一次試験が64.7%、二次試験は59.5%でした。例年50〜60%台で推移しており、比較的合格しやすい資格といえます。
ただし、出題範囲が幅広いため試験対策は必須です。出題範囲の多くは実務に関連した分野であり、実務経験が少ないと不利になる場合があります。出題範囲と出題傾向を理解した上で十分に時間をかけて試験対策を進めることが大切です。
受験資格
建築積算士の受験資格は、受験年度の4月2日現在において満17歳以上であることです。受験資格の条件は年齢のみであり、基準を満たしていれば学生でも社会人でも受験できます。
受験資格に実務経験が含まれていないため、未経験者でも受験しやすい資格です。将来、建設業界で働きたいと考えているならば、受験を検討してみる価値はあります。
受験料
建築積算士の試験の受験料は、一般で27,500円(税込)です。ただし、建築積算士補や学生会員は受験料が13,750円(税込)となっています。
建築積算士補とは、日本建築積算協会の認定する建築積算の授業単位を取得した学生が受験できる資格です。建築積算士補の資格があると受験料が安くなるだけではなく、建築積算士の一次試験が免除されます。
試験会場
建築積算士の資格の試験会場は下表の通りです。全国各地の主要都市で建築積算士の資格試験を受験できます。
試験会場は公益社団法人 日本建築積算協会のホームページ上で公開されており、最寄りの交通機関も掲載されているため、チェックしておきましょう。
建築積算士の試験会場 | 札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・岡山・広島・福岡・鹿児島・沖縄(全国10都市10会場) |
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出典: 公益社団法人 日本建築積算協会|2025年度「建築積算士」試験案内
建築積算士の資格取得は独学でも目指せる
建築積算士の資格は合格率が比較的高く、出題範囲や問われる知識が明確なため、独学でも合格を目指せます。
建築積算士の試験問題は、日本建築積算協会の発行する「新☆建築積算士ガイドブック」から出題されるのが特徴です。ガイドブックを何度も読み込むことで試験合格に必要な知識を習得できます。
ガイドブックを読んだ後は、過去問を何度も解いて知識を定着させましょう。日本建築積算協会の公式サイトに、過去問と解説が公開されています。過去問の解説やガイドブックを参照すれば、効率的に学べるでしょう。
出典:ガイドブックの紹介
建築積算士に合格するための勉強方法
建築積算士の試験に合格するには、建築積算士ガイドブックを読み込み、過去問を繰り返し解くのが効果的です。
ここでは、建築積算士に合格するために有効な勉強方法について具体的に解説します。
建築積算士ガイドブックを読み込む
建築積算士の試験は、公式の「新☆建築積算士ガイドブック」から出題されるため、読み込むことは試験対策として有効です。
日本建築積算協会の公式サイトやAmazonから、ガイドブックを購入しましょう。 ガイドブックには、建築積算の知識に加えて、建築資材や業界知識なども網羅されているのが特徴です。
ガイドブックを読み込むだけでも、建築積算士の資格取得に必要な知識を身につけられます。 実務経験がなくても、ガイドブックを読み込むことで、現場レベルの内容まで学べます。
過去問を繰り返し解く
単にガイドブックを読み込むだけではなく、過去問を繰り返し解くのも試験対策に重要です。出題内容や出題の仕方などは大きく変わらないため、過去問を繰り返し解くだけでも合格点を狙えます。
過去問を解いてみて、分からない部分はガイドブックを参照する方法で効率的に試験対策ができるでしょう。建築積算士の過去問は日本建築積算協会の公式サイトで公開されています。
過去問と解説を無料で利用できるため、試験対策に便利です。模範解答や回答のポイントまで掲載されているため、現場未経験者でも理解しやすいでしょう。
建築積算士に関連する資格
建築積算士資格は日本建築積算協会が認定する資格で、関連資格として建築積算士補、建築コスト管理士などもあります。
建築積算士に関連する資格についてそれぞれ詳しく解説するので、ぜひチェックしてみてください。
出典:公益社団法人 日本建築積算協会 | 人材育成事業 認定事業 資格について
建築積算士補
資格名 | 建築積算士補 |
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主催団体・認定機関 | 公益社団法人日本建築積算協会 |
資格の区分 | 民間資格 |
試験形式 | 二者択一 |
受験料 | 学生無料 |
受験資格 | 日本建築積算協会が認定した「建築積算」授業の単位を取得した学生 |
試験の実施頻度 | 認定校により異なる |
建築積算士補は、建築積算士の取得を目指す学生が主な対象の資格です。日本建築積算協会の認定校において「建築積算」の授業単位を取得した学生が受験できます。
認定校で試験が実施され、合格した後に登録手続きを行います。 試験形式は二者択一で、問題数は全部で40問です。試験の実施日は認定校により異なります。
建築積算士補は認定校の学生を対象とした試験であり、受験料は無料です。 「建築積算」の授業は、工業高校や大学、専門学校など多数の学校で開講されています。
取得すれば履歴書に記載でき、建設業界の就職活動でも評価されやすい資格です。また、建築積算士補の資格取得者は、建築積算士の一次試験が免除されるため、活用度は高いでしょう。
建築コスト管理士
資格名 | 建築コスト管理士 |
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主催団体・認定機関 | 公益社団法人日本建築積算協会 |
資格の区分 | 民間資格 |
試験形式 | 学科試験(四者択一)、短文記述試験 |
受験料 | 29,700円(税込) |
試験会場 | 札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡、鹿児島、沖縄 |
受験資格 | 建築積算士の資格取得後に1回以上更新登録を行った者 建築関連業務を5年以上経験した者 一級建築士に合格し、登録した者 |
試験の申込期間 | 2025年6月2日~9月5日まで |
試験の実施頻度 | 年1回 一次試験:例年10月ごろ 二次試験:例年1月ごろ |
建築コスト管理士は、2006年から現在まで継続して試験が実施されています。積算業務に加えて、適正なコストの算出ができる専門家を増やすために制定されたのが、建築コスト管理士です。
建築コスト管理士は、建設プロジェクトにおいてコストマネジメントを担当します。コストプランニングやコストコントロール、コスト情報収集など幅広い知識や技術が要求される資格です。
建築コスト管理士の試験は、四者択一の学科試験と短文記述試験により実施されます。札幌から沖縄まで全国の主要都市に試験会場があり、実施頻度は年1回です。
建築積算士の資格取得者に加えて、一級建築士や5年以上建築関連業務を経験した方も受験できます。
建築コスト管理士が在籍していることで、公共工事の入札の際に加点評価された事例もあるため、建設業界において需要が高まっている資格です。建築積算士のキャリアパスとして、建築コスト管理士の取得を目指す人は多数います。
建築積算士の具体的な仕事内容
建築積算士は、建設プロジェクトにおける「コストの専門家」として重要な役割を担います。
ここでは、建築積算士の具体的な仕事内容について、業務の流れや関わる工程ごとに詳しく解説します。どのようなスキルが求められるのか、日々の業務で何をしているのかを理解することで、職種への理解が深まるはずです。
建築積算士の基本的な仕事内容
建築積算士の基本的な仕事内容は、最初に積算業務を行うにあたって、設計図や仕様書から発注者の要望や意図を把握し、必要な材料や数量を拾い出すことです。 そのため、図面や仕様書から費用を算出する能力が欠かせません。
使用部材、工法内容や作業時間を考慮した労務費の算出も行います。大まかな予算を算出したあと、概算予算書と見積書を作成するのも、建築積算士の重要な業務の1つです。
見積書の金額が発注者から提示された予算を超えた場合、設計者にプランの見直しをアドバイスすることもあります。
公共工事における建築積算士の仕事内容
公共工事における建築積算士の仕事内容は、国土交通省や自治体が設けている積算基準と単価に応じて工事費を算出することです。工事の公告資料をしっかり把握したうえで、積算業務を行わなければなりません。
公共工事の場合、建築積算士が算出する工事費は、入札で提示する価格でもあります。公共工事は税金を使うため、事前の競争入札で工事業者を選定するのが決まりです。
競争入札は、公示された価格に基づいて競争し、実現可能かつ最適な工事費を算出することが不可欠です。
競争入札では金額が安い業者が選ばれますが、安い金額で受注したとしても採算が合わなければ赤字になってしまいます。 そのため、入札価格は企業の戦略も含めて設定する必要があります。
民間工事における建築積算士の仕事内容
建築積算士の民間工事における業務は、設計図書などをもとに、正確な工事費を積算することです。民間工事の場合も、公平性のある工事価格を見積書で提示することは大切です。
特に、民間工事が多い建設工事では、建築資材の市場価格などの動向を調査し、把握することも求められます。
なお、建設会社や設計事務所などの設計業務を実施する企業では、建築積算士がコスト管理を担うケースも珍しくありません。予算内で発注者の要望を実現するためには、コスト管理の観点から、設計者と検討していきます。
建築積算士の資格を取得するメリット
建築積算士の資格を取得することで、建設業界でのキャリア形成にさまざまなメリットがあります。スキルの証明として評価されるほか、昇進や就職活動にも良い影響を与えます。
ここからは、建築積算士の資格を取得することで得られる3つのメリットについて解説するので、ぜひチェックしてみてください。
キャリアアップにつながる
建築積算士の資格を取得すると、キャリアアップにつながります。上位資格として建築コスト管理士があり、順番に資格を取得していけば段階的にキャリアアップを目指せるためです。
また、建築積算士は、専門家として建築積算業務に携われるため、任される業務の幅が広がり、実務経験を積めるでしょう。 建築積算士として実務経験を積んだ後、建築コスト管理士の資格を取得すればコストマネジメントの業務を扱うことも可能です。
将来的に活躍の場が広がり、年収アップを期待できるでしょう。 建設業界におけるキャリアアップの方法として建築積算士の資格取得は効果的です。
昇給・昇進が期待できる
建築積算士は企業からの評価が高いため、昇給・昇進を期待できます。公共工事の発注では適正価格の見積作成ができる人材が求められているため、建築積算士の需要は高いといえます。
建設コンサル企業や建設会社などでは、資格手当がつくことが一般的です。また、建築積算士として働き続ければ、最終的には積算部門におけるマネージャーへの昇進を目指せるでしょう。
建築積算士は責任あるポジションへのキャリアアップが可能で、将来性が高い職業です。
転職活動で有利に働く
建設業では、建築の積算業務は必ず発生するため、建築積算士の資格を持っていると転職活動で有利に働く可能性があります。
また、建築積算士が在籍していると経営事項審査で加点する場合もあり、公共事業を請け負う企業からの評価が高い資格の1つです。
建築積算士の転職先には、設計事務所やゼネコン、積算会社、官公庁などがあります。自治体の建築関連部署でも建築積算士は活躍しており、公務員に転職するケースも珍しくありません。
建設業界の幅広い場で、活躍の機会があるのが建築積算士です。建築積算士の資格を取得して実績を積んでいけば、さまざまな選択肢から自分に合った職場を選べるでしょう。
建築積算士の平均年収・給料は?
建築積算士の資格自体は民間資格のため、賃金構造基本統計調査では直接の統計はありません。ただし、建築積算士と同等の職務内容を担う「一級建築士」や「建築技術者」の統計データから推定できます。
一級建築士(企業規模10人以上対象)の平均年収は、約700万円前後とされており、男性で約718万円、女性で約607万円。性別を含めた平均は約703万円程度です。
一般的な建築技術職(建築施工管理・技術職)の年収は、30代で350〜400万円台が目安とされます。
これらを踏まえると、建築積算士として実務経験を積むにつれて、年収500〜700万円程度まで昇収する可能性があります。
特に公共工事や大手ゼネコン案件に携わる場合、企業からの評価や資格手当なども含めて、平均以上の収入を得ることが期待できるでしょう。
まとめ:建築積算士の資格を取得して年収アップを目指そう
建築積算士は、積算業務に必要な技術・知識を有することを証明できる民間資格です。公共事業の入札で加点対象になる場合もあるため、多くの企業から高く評価されています。
建築積算士の資格を取得すれば、昇給や昇進、転職などで有利に働きます。
建築コスト管理士という上級資格があるため、建築積算士からのキャリアアップも目指せるでしょう。
建築積算士の資格取得や建設業界への転職をお考えの方は、「ベスキャリ建設」の活用をおすすめします。建築積算士としてスキルを活かせる求人が豊富に掲載されており、キャリアアドバイザーによる丁寧なサポートも受けられます。年収アップやキャリアの幅を広げたい方は、まず一度相談してみてはいかがでしょうか。