建設業界で工事にかかる労務費の積算をする際には、「歩掛(ぶがかり)」という数値が使われます。歩掛とは、作業を行うために必要な人員数や作業時間、機械の使用時間などを標準化した指標で、国土交通省が工種ごとに毎年改定・公表しています。
しかし、「歩掛を使って労務費を算出したり、見積を作成したりするのが難しい」「歩掛の大切さや計算方法を正しく理解したい」と思う方もいるでしょう。
本記事では、歩掛の基本的な考え方や必要性、代表的な種類、そして計算方法まで、初心者にもわかりやすく解説します。建設工事の積算に欠かせない歩掛をしっかり理解し、日々の業務やキャリアアップに活かしましょう。
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積算における歩掛とは?必要性は?
歩掛(ぶがかり)は、建設工事の積算において労務費や機械経費などを適正に見積もるための基準として重要な役割を果たします。
ここでは、歩掛の基本的な考え方と、積算における役割・必要性について解説します。
歩掛(ぶがかり)とは作業の手間を数値化したもの
歩掛とは、一つの作業を行うために必要な手間を数値化した指標です。主に労務費の算出に用いられ、工事費の適正な見積もりには欠かせない役割を果たします。 たとえば、作業員の職種や年齢、実務経験によっては、同じ作業でも必要な時間や労力に差が出るでしょう。
こうした違いを標準化したものが歩掛であり、労務単価(作業員の報酬単価)を歩掛に乗じ、さらに諸経費を追加したものが工事費用の算定根拠となります。
ただし、歩掛は作業現場、施工方法、使用する材料などによっても変わるため、条件ごとに調整する必要があります。
歩掛は適正な労務費の算出に必要
歩掛は、適正な労務費を算出するのに必要な数値です。労務費は、「材料単価×数量」で単純に算出できる材料費とは異なり、さまざまな条件を考慮する必要があります。 なぜなら、工事によって使用する材料や工事の種類、施工方法、作業現場の状況が異なるためです。
たとえば、同じ材料を使う場合でも、取り付け場所によって施工方法が異なることがあります。また、作業者の熟練度によっても、作業時間や作業量は変わります。 作業時間だけを基準に労務費を算出すると、作業量を適切に反映できず、手間がかかりすぎると赤字になる恐れがあるでしょう。
つまり、作業時間だけでは把握できない作業量を、作業場所、施工方法、材料、難易度などを加味して見積もるために、歩掛の活用は欠かせません。
積算に歩掛を利用するメリット
積算に歩掛を利用することで得られるメリットを4つ解説します。作業員の労務費は、単純な計算式で導き出せるものではありません。
そのため、歩掛を活用することで見積の精度が上がり、工程表の作成などに役立ちます。
採算が合わない工事を防げる
歩掛を利用すると積算の精度が向上し、採算が合わない工事を未然に防げます。労務費を適正に見積もれていない場合、実際の施工費が予算を大きく超過し、赤字工事に陥るリスクがあります。
歩掛を活用すれば、それぞれの作業に必要な労務費を割り出すことができます。
とくに大規模な工事では、職種ごとに労務単価が異なるため、歩掛なしでは積算が複雑かつ不正確になりがちです。
工事や作業の特性に合わせて適切な歩掛を活用することで、より実績に近い実行予算を組みやすくなり、利益の確保につながるでしょう。
工程表の作成に役立つ
歩掛を活用すると、各作業の工数(作業量)を正確に算出できるため、工程表の作成に役立ちます。工程表を作成するときには、作業ごとの所要時間や必要人員を把握することは欠かせません。
歩掛を活用して必要な人工(にんく)を算出することで、各工程の所要時間やスケジュールの見通しがつきます。また、予定の変更が生じた場合にも、作業量に基づいた工程管理を行えるため、柔軟に対応できるでしょう。
特に建設現場では、天候や資材の納品遅れなど、スケジュールの乱れが発生しやすく、大規模な現場ほど調整が困難です。あいまいな積算ではこうした調整に対応しきれませんが、歩掛を用いれば、実情に即した工程管理を組むことができます。
見積の根拠を表せる
国土交通省などが定める標準歩掛を活用すると、積算の根拠を明確に示すことができます。見積書に記載する工事項目のなかでも、労務費は、とくに不透明で発注者にとっては理解しづらい部分です。 そのため、見積の提出時には、積算の根拠を説明する必要があります。
歩掛をもとに算出した積算であれば、「どの作業に、どれだけの労力が必要か」を数値で表せるため、顧客の納得感が高まり、信頼を得ることにつながるでしょう。 また、「過去に同じような工事を発注したのに、今回の見積は高い(または安い)」といった問い合わせにも、現場条件や施工方法の違いを明確に伝えることが可能です。
工事の詳細や現場の条件の違いを、具体的かつ根拠のある説明にするためにも、歩掛の活用が重要です。 価格交渉を受けた際にも、積算に歩掛を活用していれば、「どこを削減すれば予算に収まるか」「材料や工法を変更すればどうコストが変わるか」など、根拠のある提案ができます。
作業現場の最適化が図れる
歩掛を活用して適正な労務費を把握することで、作業現場の最適化が図れます。
例えば、標準歩掛を活用して算出した積算と、自社の実際の工事結果を比較して違いがあれば、改善点を見出すことが可能です。 ただし、歩掛の算出は膨大な手間と時間がかかる作業です。材料や作業ごとに計算が必要になるため、人的ミスが発生しやすいという課題もあります。
この課題の解決策として、近年では歩掛を活用した見積作成を支援するシステムの導入が進んでいます。これにより、作業の正確性とスピードが向上し、現場運営の効率化が期待できるでしょう。
積算における歩掛の調べ方
積算における歩掛を調べる代表的な3つの方法を紹介します。
「公共建築工事標準単価積算基準」は、国土交通省が毎年調査したうえで改定・公表しているため、最新の単価を調べて活用する必要があります。最新の情報は、国土交通省のWebサイトから確認可能です。
建設物価は、一般財団法人 建設物価調査のWebサイトにアクセスするか、書籍や電子書籍を入手する方法もあります。 各団体・企業が独自に作成している歩掛は、各団体とWebサイトをチェックするか、直接問い合わせてみましょう。
歩掛の調べ方 | 入手方法 | 内容 |
---|---|---|
公共建築工事標準単価積算基準 | 国土交通省のWebサイト | 公共工事における積算基準 |
月刊 建設物価 |
一般財団法人 建設物価調査の |
材料・機械の価格 |
各団体・企業が |
各団体のWebサイト 企業への問い合わせ |
専門性の高い工事の歩掛 |
出典:公共建築工事標準単価積算基準|国土交通省
出典:土木工事標準歩掛|国土交通省
出典:Web建設物価|一般財団法人 建設物価調査
公共建築工事標準単価積算基準
歩掛は、国土交通省の「公共建築工事標準単価積算基準」で調べることができます。 材料の種類や施工方法などの条件で、作業の手間が異なるため、一つひとつの材料ごとに歩掛を使用して労務費を算出していると、積算業務が膨大になります。
そのため、実際の積算業務では、国土交通省の「公共建築工事標準単価積算基準」を参考にするのが一般的です。公共建築工事標準単価積算基準では、材料のサイズや種類など、詳細な「標準歩掛」を設定しています。標準歩掛を参考にすることで、より適正な労務費を算出できます。 なお、公共建築工事標準単価積算基準では、作業員の年齢、資格、実務経験年数をもとにした標準歩掛の設定基準を定めています。
年齢
標準歩掛の年齢は、健康な青年や壮年を想定したものです。実際に従事する作業員の年齢を把握し、積算に反映させる必要があります。
資格
資格の場合、現場に配置する技術者、施工に必要な資格の有無で歩掛が異なります。また、全体の作業者のうち、有資格者が占める割合によって歩掛が異なるので注意が必要です。
実務経験年数
実務経験年数の標準歩掛は、ベテランと新人で歩掛が異なります。年齢の歩掛と同様に、実際に従事する作業員の経験年数を考慮しなければなりません。このように、工事の条件はそれぞれ異なるため、標準歩掛を自社に合わせるなど、臨機応変に対応する必要があります。
出典:公共建築工事標準単価積算基準|国土交通省
建設物価
「月刊 建設物価」は、一般財団法人建設物価調査会が、建設工事に関わる建設機材の価格、工事費、賃貸料金などを地域ごとに毎月調査した物価が掲載されている総合情報誌です。 業界での信頼が高く、全国の公共工事や民間工事でも、見積作成時に建設物価のデータが使用されています。
建設物価調査会の調査は、建設資材のメーカーや商社、特約店などの販売会社にインタビューをする手法です。 販売業者も購入業者も実際の取引価格を公表することはありませんが、定期的に調査を行い、中立的な立場で実態の取引単価を調査しています。
各団体・企業が独自に作成している歩掛
各団体・企業が独自に作成している歩掛もあります。 さまざまな種別がある建設・土木工事は、専門業者が細かく分かれているため、国土交通省や建設物価調査会のデータでは、自社の工事にマッチしないというケースもあるでしょう。そのため、企業や団体が独自で歩掛表を作成している例もあります。
歩掛を使った積算方法
工事の見積を作成する際に必要な積算方法を説明します。
歩掛を使用した積算は、計算方法を習得できれば難しくありません。今回は、手順を4つのステップに分けて紹介します。
工事に必要な材料や機器の数量を集計する
まず、図面から必要な材料や機器などの数量を拾い出し、集計します。この際、平面図だけでなく、断面図や配置図、構造図など、複数の図面を参照しながら必要な数量を読み取る必要があります。
また、数量の拾い出しでは、仕様書も併せて確認し、適切な材料や機器を選定することが重要です。材料の種類やサイズによっても歩掛は異なるため、可能な限り正確に集計していきましょう。
該当する工事の歩掛を選択する
数量の拾い出しと集計が完了したら、該当する工事に適した歩掛を選択しましょう。
工事の種別や現場の特性から最適な歩掛を選びましょう。基準となる歩掛表に該当するものがない場合は、一番近しい歩掛を使います。 また、作業員の熟練度や作業条件によっては、歩掛の数値を調整する必要があります。 たとえば、作業環境が悪く通常より作業効率が落ちる場合には、歩掛の数値を引き上げるなどの対応が必要です。
歩掛に基づいて各費用を計算する
数量と歩掛が揃ったら、下記の計算式を用いて、労務費や材料費など各費用を計算します。
- 労務費:人数×時間×労務単価
- 材料費:数量×材料単価
- 機械経費:時間×経費
以下の例で、各費用を計算してみましょう。
【例:10m²のコンクリート床の施工を行う際の歩掛が以下の場合】
項目 | 労務費 | 材料費 | 機械費 |
---|---|---|---|
歩掛 | 2 | 1 | 0.5 |
単位 | 人工/10m² | m³/10m² | 時間/10m² |
労務単価が20,000円/人工、コンクリートの単価が15,000円/m³、機械経費が10,000円/時間で計算すると、各費用は以下のように算出できます。
- 労務費:2人工 × 20,000円/人工 = 40,000円
- 材料費:1m³ × 15,000円/m³ = 15,000円
- 機械経費:0.5時間 × 10,000円/時間 = 5,000円
これらを合計すると、直接工事費は60,000円となります。
共通仮設費・現場管理費を加算する
共通仮設費や現場管理費は、工事全体のコストを正確に計算する上で不可欠な費用です。材料費・工事費・機械経費などの直接工事費の算出後、工事全体の積算において、共通仮設費や現場管理費を加算します。
共通仮設費は、現場内で共通して使用される仮設物(仮設トイレ、足場、仮囲いなど)にかかる費用であり、各工事における共通仮設費率を「直接工事費」にかけて算出するのが一般的です。
さらに、現場管理費は、直接工事費と共通工事費を合計した「純工事費」に現場管理費率をかけて求められます。
積算の注意点
積算は工事にかかる総費用を算出する重要な工程で、複雑で細かい計算が伴うため、以下の点に注意しましょう。
- 歩掛を間違えないこと
- 数量を正しく計算すること
- 諸経費を忘れないこと
積算時の注意点 歩掛を間違えないこと 数量を正しく計算すること 諸経費を忘れないこと 誤った歩掛を用いると、必要な工数にずれが生じ、工期や費用に大きく影響します。歩掛は工事の種類ごとに異なるため、現場の条件にあわせて調整する必要があります。
歩掛が適切でも数量に誤りがあれば、工事費を間違えてしまいます。図面から必要な材料を正確に拾い出し、積算に活用しましょう。
また、材料や労務費の積算以外に、共通仮設費や現場管理費などの諸経費を忘れないことも重要です。各作業に対する必要な経費は割合で算出することもありますが、積算段階で抜けていると赤字になりかねないため、注意しましょう。
歩掛は、最新の情報を確認した上で使用することも大切です。国土交通省の「公共建築工事標準単価積算基準」が毎年更新されていることからも分かる通り、歩掛は定期的に更新されています。古い情報を使用すると積算ミスにつながる可能性があることも覚えておきましょう。
注意点 | 説明 |
---|---|
歩掛の間違い | 間違った歩掛を選択すると、工期や費用に大きなずれが生じるため、工事内容や条件にあった歩掛を選ぶ |
数量計算の誤り | 数量計算の誤りは、積算全体に影響を及ぼす可能性がある。 図面をよく確認し、数量算出要領に従って正確に数量を算出する |
諸経費の見落とし | 共通仮設費や現場管理費などの諸経費は、工事全体に影響する重要な費用。 諸経費率表などを活用し、漏れなく計上する |
積算と歩掛の重要性を再確認しましょう
歩掛は、国土交通省が公開している標準歩掛を参照したうえで、現場の条件や作業員によって柔軟に調整する必要があります。適切な歩掛を活用した積算であれば、見積の精度が高まり、赤字工事を回避でき、工程管理もしやすくなります。
歩掛は積算の基本知識として理解しておきましょう。 積算業務の経験を活かしてキャリアアップしたい方は、転職するのも方法の1つです。建設業界では、積算スキルがあると高く評価されるため、転職市場でも強みとなります。
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